営業担当引継ぎで売上UPを実現するポイント|受ける側と、平時の設計──引き継ぎを「渡す技術」で終わらせないために
営業担当の引継ぎはポイントを押さえれば売上アップの絶好の機会になりえます。逆に失敗すれば失注や取引縮小にも繋がります。引継ぎを売上アップの機会に変えるポイントをまとめました。漏れのない情報伝達や人的つながりの顔合わせをすることは当たり前のこととして、前任者がやりきれなかったことなどの「前任者の頭の中にしかない情報」についてもしっかりと引継書に項目として含めることで、売上UPの機会へと繋げることが重要です。
営業引継ぎについて
人事異動や退職、営業担当の変更などによって定期的に発生する営業引継ぎですが、前任者がどこまで丁寧に対応するかどうかで後任の売上に大きく関わってきます。組織としてしっかりと対応する必要がありますが、どのような点に心がけて引継ぎをすることが大切なのでしょうか?
また引継ぎ機会は一つの大きな仕掛け時と言われています。引継ぎ機会をどのように活用することで売上UPにつなげていくことができるのでしょうか?
営業の引継ぎ機会の重要性
引継ぎ機会はこれまでできなかったことやクライアントに聞けなかったことを、新しい担当に切り替わることで心機一転仕掛けるチャンスと言えます。例えば長年担当していると聞きづらいようなことも、新しい担当に切り替わったということで「御社のことを教えてください」と、改めて聞き出すことが可能です。
また長い期間担当することで、クライアントに対して新しく仕掛けるといったことや、既成概念に捉われない大きな提案をするといったモチベーションは失われていく傾向にあります。馴れ合いのような関係性ができてしまい、仕掛けるようなタイミングをなかなか構築しにくいというようなこともあります。
しかし、新しく担当する営業にとってはまずは信頼を勝ち取ることが大切ですので、なるべく最初は頻度高く通うことを心がけましょう。その信頼を勝ち取る過程で、大きな仕掛けをしていくことができるというのは引継ぎ機会の重要性の一つと言えるでしょう。
引継ぎの際の注意点
クライアントにとって、担当者が変わるということはあまり歓迎すべきこととは言えません。せっかく慣れてきたお互いの企業の風習や慣習などを一から教えなければいけないストレスなどがあるからです。例えば請求書は自分ではなく経理宛に直接送って欲しいのに自分に送られてきたり、社内のことをあれやこれやと改めて聞かれると「そんなことはそちらで情報共有しておいてほしい」と感じるからです。
ですので、営業担当として気をつけなければいけないことは、前任者が持っているクライアントに関する情報は余すことなくしっかりと後任に伝えることが一番重要です。さらに、前任者が持っている先方へのパイプや人脈はしっかりと後任者と前任者が引継ぎ訪問をし、名刺交換した上で連絡しあえる関係性を続けるようにしましょう。
営業引継ぎで売上UPを実現するために前任者が必ずすべきこととは?
漏れのない情報伝達
先述のように、まず前任の営業だったら売れたモノが後任に引き継ぐことによって受注できなくなるというのが、最悪の引継ぎといえます。これらの多くは「前任者のことが個人的に好きだった」「取引縮小や取引停止を言い出すよい機会」というようなことによって起こります。
これらはある意味防ぎようのない取引ダウンと言えますが、絶対に避けなければいけないのが自社要因による失注や取引ダウンです。これらは主に引き継ぎにより、先方にストレスを与えることでおきてしまい、その多くが前任から後任への情報の伝達漏れによるものとなります。まずはどのようなことがあっても、前任から後任に間違いなく情報が伝わるようにしましょう。
しかしながら、営業担当に情報伝達の内容を任せきりにしてしまうと、どうしても「必要な情報」について主観が入ってしまい、情報伝達が漏れがちになるため、組織として公式の引継書を運用し、間違いなく前任から後任に情報が伝わるように組織として担保することが大切です。
また場合によっては、マネージャや部長が引き継ぎに同席し、間違いなく情報伝達がされているかを個別にチェックするということも実施すべきです。
進行中の提案や商談のクロージング
もし引継ぎの際に商談中や提案中の商品があるのであれば、時間が許す限り前任者がしっかりと売り切るようにしましょう。引継ぎ後すぐに事情や雰囲気やお作法もママならない中で、後任に売るという行為を託すことは非常に危険です。また「これまでお世話になった発注」も期待できますので、前任者の負の置き土産にならないように、前任者が売り切るようにルール化しておくことが理想です。
今あるつながりを消さない引継ぎ挨拶
情報伝達と同時に大切なことが、クライアントとの人的つながりを絶やさないことです。例えば前任者は必要に応じて決裁者とアポをとることができたが、決裁者との引継ぎ訪問をしなかったことにより後任が決裁者に直接アプローチができなくなったなどは絶対に避けなければいけないことです。
また引継ぎをきっかけにして普段会えない決裁者と会う口実を取り付けることも可能です。大企業だと部長クラスに会うこともママなりませんが、例えば営業引継ぎの際にこちら側も役員や営業本部長などを訪問要員としてアテンドすることで、先方もそれにあった役職の方をテーブルにつけてもらえるなどの機会として活用することもできます。
できなかったことの伝達
引継ぎを効果的な売上UPの機会とする一番のポイントは「前任ができなかったことを後任に託す」という点にあります。営業をしていると、様々なしがらみや優先順位、モチベーションなどの影響で「行動には移せなかったがしたかったこと」が多く存在します。
恐らくそれは頭の中で描いていただけのことに過ぎないかもしれませんが、ある種の「理想の取引像」とも言えます。実現することが決して容易ではないこともたくさんあるかもしれませんが、「前任として最高の状態」がどういう状態であったかということを後任に託すということは引継ぎの中でしっかりと伝えていかなければなりません。
また前任者の頭の中には「理想の状態」だけでなく、「そこに至るまでのステップ」についても形があるはずです。どのようにすればその状態が実現できるのか、到達できるのか、それに至るまでの壁は何なのかという点についても後任にしっかりと伝えることで、より後任の仕掛けを具体性のあるものとしていくことは前任者の大きな役割の一つです。
営業引継ぎの種類とそれぞれの目的について
引継ぎには大きく下記の二種類があります。
- 机上引継ぎ
- 引継ぎ訪問
机上引継ぎの目的は情報の伝達、引継ぎ訪問の目的は人的つながりの受け渡し(挨拶・顔合わせ)にあります。
机上引継ぎ
机上引継ぎは必ず引き継ぎ訪問の前に実施するようにしましょう。訪問前の移動中などで簡単に済ませるのではなく、しっかりと時間をとって定められた引継書に沿って必要な内容をしっかりと伝えるようにしましょう。
引継ぎ訪問
引継ぎ訪問は必ずしも一回で終わるとは限りませんし、簡潔に終わらせればよいというものでもありません。特に決裁者へのルートを根絶やしにする引継ぎは最低の引継ぎといえますので、先方の重要なキーマンについては前任者と後任がセットで挨拶できるようにしましょう。
引継書の内容に含めておきたい漏れがちな項目(引継書フォーマットあり)
引継書には売上や過去の取引履歴が記載されていることは当たり前のこととして、下記のようなものもしっかりと入れておくことが大切です。
決算期
決算期末は予算を大幅に絞られたり、思わぬ追加発注があったりと営業にとっては成績を左右する大きな機会となります。
取引が減ることも増えることもありますが、その情報の多くは事前にキャッチすることが可能です。後任にしっかりと決算期を伝えたうえで、情報のキャッチアップをいつ頃までに誰宛にするべきかという人的情報も合わせて伝えるようにしましょう。
組織図・決裁ルート
漏れがちな情報の一つが、登場人物が網羅された組織図や決裁ルートです。取引額が大きくなればなるほど、非公式の決裁ルートが存在する可能性があります。クライアント社内の味方になりうる人を前任者が嗅ぎ付けているのだとしたら、後任にその情報をしっかりと伝え、うっかりした失注や、持って行き方の失敗による取引ダウンは避けるように心がけましょう。
直近の取引経緯
直近の取引経緯(受注きっかけ)は次の受注機会を伺う上で極めて重要な情報です。「タイミングよく訪問できたから」「ニーズを教えてくれる人が先方社内にいたから」などのきっかけに相当するものもそうですし、どのような課題感に対するどのような提案が刺さったのか、どのように追加受注をしかけたのかなどもしっかりと引継ぎ書に含めておく必要があります。
仕掛け時
先述の前任者が「できなかったこと」に近い概念になりますが、どのようなタイミングであれば受注可能性が高まるのか、それはどのような合図によって見極めればよいのか、なども重要な情報の一つですので引継書に含めるようにしましょう。
例えばわかりやすい一つの事例が決算期末の予算費消などの予めタイミングがわかっているものもありますし、「先方企業の売上目標達成をした翌月は予算が出やすい」などの情報をしっかりと握っておかないとわからないようなこともあります。繰り返しになりますが、前任者が持っているこのような「長年担当していたからこそ知っている情報」は引継書にしっかりと含めておきましょう。
引き継ぎを「受ける側」の、最初の90日
この記事の前半では前任者が何をすべきかを丁寧に描きました。ここでは視点を後任側に移します。どれだけ立派な引継書をもらっても、受け取った側の初動を誤れば、売上は簡単に落ちるからです。
後任がまずやるべきは、焦って仕掛けないことです。前任者から「この顧客には大きな提案余地がある」と託されると、早く成果を出したくて前のめりになりがちですが、信頼のない状態での提案は空回りします。最初の一か月は、売ることより「この人になら任せられる」と思ってもらうことに徹します。先に触れたとおり、新担当は最初こそ頻度高く通うのが基本です。次に、引き継いだ情報を鵜呑みにせず、自分の目で検証します。前任者の主観が入った情報は、事実と印象が混ざっているものです。「キーマンはこの人」と聞いても、自分で会って確かめます。そして、担当交代というカードを最大限に使います。長い付き合いの前任者では聞きづらかったことも、新担当なら「一から御社のことを教えてください」と正面から聞けます。この特権が使えるのは着任直後の数か月だけです。三十日で信頼の土台を作り、六十日で情報を自分のものに更新し、九十日で最初の一手を打ちます。この順番を守るだけで、引き継ぎ後の失速は大きく防げます。
担当交代は「マイナスからの出発」──だから挨拶を設計する
先に触れたとおり、担当が変わることは顧客にとって歓迎すべき出来事ではありません。慣れた関係が切れ、また一から関係を作り直すストレスを相手に強います。つまり後任は、ゼロではなくマイナスの地点からスタートします。この初期のマイナスを最小化する道具が、引き継ぎの挨拶です。
挨拶は、メールでも訪問でも、押さえる型は同じです。第一に、前任者がお世話になったことへの感謝です。第二に、これまでの取引や関係を「そのまま引き継ぐ」という継続の約束です。担当が変わっても不利益はない、という安心を先に渡します。第三に、具体的な次アクションの提示です。「近日中にご挨拶に伺わせてください」「まずは現状をお聞かせください」と、次の一歩を明示します。抽象的な「今後ともよろしくお願いします」で終わらせず、相手が次に何が起きるかを予測できる状態にします。とりわけ訪問での引き継ぎ挨拶は、前任者と後任がセットで行くのが鉄則です。先に「決裁者へのルートを根絶やしにする引き継ぎは最低」と断じたとおり、キーマンには必ず前任者の紹介付きで会っておきます。紹介という後ろ盾があるうちに顔をつないでおけば、後任は関係のマイナスを、少なくとも中立まで戻した状態で始められます。
引き継ぎを「イベント」から「常時」へ
もう一つ、根本的な打ち手があります。それは、引き継ぎを特別なイベントにしないことです。この記事の前半では「前任者の善意に甘えず、組織として引き継ぎ体制を作れ」と述べていました。これを突き詰めると、行き着くのは「日頃から情報を組織に残しておく」という平時の習慣です。
引き継ぎが大仕事になるのは、必要な情報が前任者の頭の中や個人のメモにしか存在しないからです。決裁ルート、直近の受注経緯、仕掛け時の合図――先に「漏れがちな項目」として挙げたものは、どれも本来、その都度SFAやCRM、共有の顧客台帳に記録しておけるものです。商談のたびに要点を残す習慣が組織にあれば、担当交代のときに慌てて掘り起こす必要はありません。引き継ぎ書は、ゼロから書く特別な文書ではなく、日々の記録を交代のタイミングで束ねたものになります。属人的なメモに依存した引き継ぎは、前任者が丁寧な人かどうかという運任せです。情報を平時から組織の資産にしておけば、引き継ぎの質は個人の善意から切り離され、誰が抜けても崩れない体制になります。引き継ぎ対策の本丸は、交代の瞬間ではなく、その前の日常にあります。
そもそも、引き継ぎで「渡せないもの」は何か
ここまで受ける側の初動、挨拶の設計、平時の記録を見てきました。最後に、引き継ぎという営みそのものの限界を、一度見つめておきたいと思います。
引き継ぎとは、前任者が持っているものを後任へ受け渡す作業です。では、渡せるものと渡せないものを分けてみると、何が見えてくるでしょうか。情報は渡せます。決算期も、組織図も、取引の経緯も、引継書に書き出せます。人脈も、同席訪問という手続きを踏めば、形の上では受け渡せます。ところが、どうしても渡せないものが一つ残ります。それは、「なぜこの顧客が、ほかでもないこの前任者を信頼したのか」という、関係の文脈そのものです。積み重ねた雑談、危機のときに見せた誠実さ、相手の言葉にならない期待を汲んだ無数の場面――こうした暗黙の蓄積は、引継書のどの欄にも書き込めません。
ここに、引き継ぎという行為の根本的な難しさがあります。もし顧客が買っていたものが、商品でも会社でもなく「その人との関係」だったとしたら、引き継ぎは原理的に不可能なものを渡そうとしていることになります。「担当が変わるなら、うちも他社を検討しようかな」という一言が出るとき、それは商品への不満ではなく、信頼が会社ではなく個人に帰属していたことの証拠です。だとすれば、引き継ぎの成否は、実は引き継ぎの瞬間には決まっていません。その何年も前から、顧客の信頼を「個人」に貯めてきたのか、それとも意識して「会社やチーム」に帰属させてきたのか――そこで大半、勝負はついています。優れた組織や営業は、平時から「この会社は誰が担当しても大丈夫だ」という状態を作り、属人的な信頼を少しずつ組織的な信頼へと移し替えています。
つまり引き継ぎとは、目の前の受け渡し作業である以上に、過去の関係設計の答え合わせなのです。渡せる情報を丁寧に渡すのは当然の前提として、その先で問われているのは、「自分は顧客の信頼を、いつか手放せる形で築いてきたか」という一点です。いい引き継ぎができる人とは、引き継ぎが上手い人ではなく、そもそも自分がいなくなっても回るように顧客との関係を育ててきた人なのだと思います。
Noteも書いてます
営業を"言語化""構造化"する話を、ゆるめに。

