できる営業マンが実践している「クライアントのことを知る」営業とは?|「知る」を精度で語る──四つの層、聞く前の準備、深く掘る技術
できる営業マンに共通しているポイントの1つに、「クライアントのことを知る」という点があります。本当にクライアントを知る、ということはどういうことなのか、できる営業マンが意識しているポイントを紹介します。
クライアントのことを知り、クライアント以上にクライアントのことを考える
営業マンであるあなたにはクライアントがいるはずです。法人の営業であれば、企業そのものだったり、対象となる部署の担当者だったり、個人向けの販売職であったとしても、あなたが売りたいモノを購入してくれる個人のその人がクライアントに該当します。
クライアントを知る
彼らはどのような人で、どのようなことを目的に、どのようなことを実現・達成したくて、あなたからモノを買おうとするのでしょうか?また逆に買わない決断をするのでしょうか?多くの営業マンはそのことについて、考えを巡らせた経験があるかと思います。しかし、例えば、あなたが営業として対峙しているクライアントその人は、どのような会社からどのようなミッションを命じられて、今あなたと向き合っているのでしょうか?
そしてその上長はどのような意向で、そのようなミッションを命じているのでしょうか?もっと言うとその達成基準はどのようなもので、どこまでを達成すると、評価される対象となりえるのでしょうか?またどのような手段を講じれば、それをあなたは知ることができるのでしょうか。残念ながらこれらの情報はどれだけ優秀な検索エンジンを用いたとしても知ることはできません。 あなたがクライアントに対して「聞く」ことを通じてしか、その情報を知ることはできないのです。
中途採用媒体のリクナビネクストが実施した営業職1500人に聞いた「16分野別」絶対不可欠スキルに関するアンケートにおいて「ヒアリング力」は課題発見力についで2番目に必要不可欠なスキル(全体の11.4%)として挙げられています。
クライアントのことを知った先にあるもの
例えばあなたが対峙しているクライアント先企業の担当者Aさんという人がいました。あなたはこの人に年間100万の広告のプランを提供している広告代理店の営業マンだったとします。もし仮に、このAさんが自社の集客についてミッションを背負っておらず、あくまでも会社全体の広報を担当する人物だった場合、そもそも会う人が間違っている可能性があります。
似たケースとして、例えばあたなが売りたいその商品を使って、その人において極めて少ない工数で効率よくまわすべきミッションだったというケースは相当数あります。そういった人に対して、劇的な広告効果改善を謳い文句にセールストークを繰り広げたとしても恐らく受注につながることはないでしょう。恐らくその人にとって、あなたが売りたい商品を使って従事する業務は、「何もしなくても、勝手にまわっている」という状態を望んでいるはずです。広告効果が上がるということではなく、ただひたすらに効率を重視して、「Aさん、あなたの業務はこれでほぼ0にすることできます」という伝え方をする必要があります。
その状態が適正なのか
一方であなたは第三者として、Aさんが関わる業務について、Aさんがそれほど工数をかけずにスムーズに回しているだけの状態が、クライアント企業にとってベストな状態か?について考える必要があります。つまり、その状態が会社として適正なのか、という疑問についてです。
例えば、Aさんか、Aさん以外の人か、は別として例えばそこに十分なリソースを充当することができた場合、投資対効果として劇的な売上と利益をもたらす可能性が高いのだとしたら、それは適正ではないということになります。 あくまでもAさんはあなたにとってクライアント企業の担当者ではありますが、Aさんの言うことがベストとは限りません。そしてまたAさん自身もその状態が適正であると感じているとは限りません。あくまでもAさんにとってはそれはサクサク快適に進むことがベストなだけであって、例えば今すぐAさんがクライアント企業の社長になったときに、Aさんは後任に同じような働き方をさせるかというと、その限りではありません。
営業としてあなたは、その状態が適正化を判断する必要があります。この場合において、あなたの会社の商品が売れるかどうかというのは極めてどうでもいい問題です。大切なのはあなたの会社の商品を使って、クライアント企業が劇的に売上を伸ばしたり、劇的に成長する機会を得たり、その可能性についてです。
もしそこで、あなた自身が、心から自社の商品を使うべきであると感じることができるのであれば、Aさんに「僕はあなたが片手間で、この業務をこなしている状態は会社として適正ではないと思う。弊社の商品を使って儲ける機会を逸していると感じている。 Aさんはどうお考えになられていますか?」ということを聞いてみましょう。
もしあなたが本当に自社の商品の価値についてそれまでにAさんに伝えることができていたのであれば、かなりの確率でAさんは「本当はもっとこの業務にパワーを割いて、真剣に取り組みたいが、なかなか自分の判断でそれはできない」と答えると思います。 そのときに活躍するのが「上司の営業同行」です。
もしAさんがそう思わないのであれば、どうしてそう思うかをきちんとヒアリングしてみましょう。細かい点をすり合わせていけば、Aさんとあなたとどちらが間違っているのかを明らかにすることができます。大切なのは、聞き、そして知ることです。多くの営業は、極端に踏み込むことを恐れたり、そういった選択肢があることを知らずに、失注するケースが多いように思います。 あなたが先方企業の経営者だった場合、もしくは先方担当者の上司だった場合どのような選択肢があり、その選択肢の中から最適な解は何であるかということをクライアント以上に考えることが最も求められています。
正しい上司の営業同行の形とは
よく「ご挨拶で」という理由で上司の営業同行をしてもらうケースがあります。もちろんそれ自体はしっかりとしていかなければならない点です。企業と企業の付き合いである以上、組織と組織として付き合っていくのは、大切な顧客であればあるほど、重んじるべきだと思います。
一方で、先述したAさんのケースのように、クライアントに対して、担当者のミッションをもっと増やしてもらうようなお願いをするといった、一業者以上の立場でクライアント企業内に入り込もうと画策する際に、パワーを発揮するのが名刺であり、肩書きです。
もちろん、ミッションをもっと増やしてもらうというのはただの一例に過ぎませんので、例えば、もっとこういった戦略で、とか、もっとこういう競合対策を、とか、もっとこういう部分に対する投資を、など、いろいろなケースが想定されます。大切なのは、今の状態がベストではないということをAさんと合意形成をして、同じ立場にたってAさんと会話ができる場をつくることにあります。
営業同行の役職者の同行については、そちらがそのような役職を連れてくるということであれば、こちらもこちらで、という形で、より強い決裁権限を持った役職者を用意する企業も少なくないと思います。それほど、営業する側と営業される側において、「なんとなく相手に失礼のないようにバランスを取ろう」という配慮がなされるのも日本においてのビジネスの様式美であるように感じます。
肝心のその場において、あなたもしくはあなたの上司はAさんの上司である方に対して、これまでのAさんのやりとりを含めて、どのような機会損失を生んでいる可能性があるかを、伝える必要があります。
この点において重要なことは「売るつもりできた」わけではないことをきっちりと伝えることです。
上司同行は大まかな方向性を先方と握る場
売れてしまうのであればもちろんそれに越したことはありません。
ただし、先方の役職者が高ければ高いほど、細かいどの業者にどのような発注をして、どのような商品を購入するかということに意識がありません。彼らが意識していることは先述したような、どのように売上をあげるか、どのようにして組織のミッションを達成するか、どのように多くの利益をあげ従業員に還元するか、どのようにして競合に勝っていくかという点です。
役職が高ければ高いほど、商品についての話ではなく、先方企業の方向性に関する議論をすべきであり、あなたの横に座るその人の肩書きはただの飾りではないことを知るでしょう。つまり、経営の大きな方向性に関する議論であればあるほど、現場のあなたではなく、様々な経験を積み、会社の経営に近い立場にいる上司の方がきっとクライアントと適切な会話をすることができるはずです。
こういった側面もあり、先方と当方の役職はなるべく近い方がよいという力が働くのです。大きな流れさえ固まってしまえば、あとは現場でよきにはからえの精神で、誠実な人であればきちんと固まった内容に関して履行してもらえるはずです。もちろん、そのあとは定期的に、お会いできた役職者に対する定期的な訪問をきちんとするようにしましょう。
まとめると、本記事のポイントを押さえることが大切です。要点を振り返り、自分の現場に合わせて実践していきましょう。
「クライアントを知る」を、四つの層で捉える
この記事の前半では、担当者のミッションや上長の意向を知ることの重要性を掘り下げました。ここではその「知る対象」を、抜けなく捉えるために四つの層に整理します。層で捉えると、自分が今どこを知っていて、どこが空白かが見えてきます。
第一の層は、個人です。目の前の担当者がどんな立場で、何を評価基準に動き、何を気にする人なのでしょうか。この記事の前半が最も力を入れていた領域です。第二の層は、組織です。誰が決裁権を持ち、部門間にどんな力学があり、予算はいつ動くのでしょうか。第三の層は、事業です。相手の会社がどうやって儲けているのか、コスト構造はどうか、主力は何で、どこが弱点なのでしょうか。第四の層は、外部環境です。その業界にどんな風が吹いているか、法規制や競合の動きはどうなのでしょうか。多くの営業は第一・第二までで止まります。しかしこの記事の前半が描いた「上司同行で経営の方向性を議論する」場面で本当に効いてくるのは、第三・第四の層です。相手の儲けの構造と業界の風向きを理解していなければ、役職者と交わす会話は上滑りします。四つの層のうち、自分がどこを空白のままにしているか――まずそれを自覚するところが出発点です。
聞く前に、仮説を持って行く
この記事の前半では「これらの情報は検索エンジンでは分からない、聞くことでしか知り得ない」と述べていました。これは核心を突いています。ただ、そこに一つだけ補助線を引きたいと思います。聞くことでしか分からないのは事実ですが、聞く精度は、聞く前の準備で決まります。
同じ「御社の課題を教えてください」でも、何も調べずに聞くのと、仮説を持って聞くのとでは、返ってくる答えの深さがまるで違います。相手の決算やIR資料、採用ページ、最近のプレスリリース、経営者のSNS――公開情報からでも、「たぶんこの会社はいま人手不足で、それが成長のボトルネックになっているのではないか」といった当たりはつけられます。この仮説を携えて、「採用を強化されている時期だと拝見しました。現場はかなり逼迫していませんか」と聞きます。すると相手は「分かっている人だ」と感じ、表面的な建前ではなく本音を返してくれます。逆に、ゼロから「何にお困りですか」と聞くと、相手は一から説明する負担を背負わされ、会話は尋問のように浅くなります。検索で答えは出ません。しかし検索で仮説は作れます。前半の「聞くしかない」を、「仮説を持って聞く」へ一歩進めると、ヒアリングの質は跳ね上がります。
深く聞く──表面の要望から、背景と目的へ
知るための技術として、もう一つ。聞くとは、相手の最初の言葉をそのまま受け取ることではありません。表面の要望の下にある、背景と目的まで降りていく作業です。
たとえば相手が「もっと効率化したい」と言ったとき、そこで止めれば、前半のAさんのように「片手間で回したい人」だと早合点しかねません。ここで「なぜ効率化を優先されているのですか」「効率化した先で、本当は何に時間を使いたいのですか」と一段掘ります。すると、「本当はもっとこの業務に力を入れたいが、人手がなくて手が回らない」という、先にAさんが漏らした本音にたどり着きます。掘るときのコツは、事実→解釈→感情の順で降りることです。まず「今どういう状態ですか」と事実を確かめ、次に「それをどう捉えていますか」と解釈を聞き、最後に「本当はどうしたいですか」と本音に触れます。いきなり本音を聞こうとすると相手は身構えますが、答えやすい事実の質問から入れば、自然に深いところまで開いてくれます。先に「聞き、そして知ることが大切」と繰り返したのは、この深掘りができて初めて、担当者本人すら言語化していなかった真の課題が表に出てくるからです。
そもそも、知った先で「踏み込めるか」
ここまで、知る対象の四層、聞く前の準備、深掘りの技術を見てきました。最後に、「クライアントを知る」という営みの、本当のゴールを問い直しておきたいと思います。
「知る」という言葉には、知れば知るほど正解に近づく、という響きがあります。情報を集め、深く聞き、相手を理解する――たしかにそれは営業の土台です。けれど、この記事の前半が描いたAさんの例をもう一度思い出すと、「知る」の本当の難所は、情報の量ではないことに気づきます。Aさんは「この業務は片手間でいい」と考えていました。しかし営業から見れば、それは会社にとって大きな機会損失でした。ここで問われたのは、もっと情報を集めることではありません。知ってしまった不都合な事実――相手本人が望んでいる現状が、実は相手の会社の利益を損なっているという事実――に、関係が壊れるリスクを負ってでも踏み込めるか、という一点でした。
多くの営業は、ここで足を止めます。せっかく築いた関係を壊したくない、嫌われたくない、失注したくありません。だから、相手の現状認識をそのまま肯定し、要望どおりの提案に丸めてしまいます。それは一見、相手に寄り添っているようで、実は相手の利益から目を逸らしています。先に「あなたの会社の商品が売れるかどうかは極めてどうでもいい」「クライアント以上にクライアントのことを考える」と踏み込んだのは、まさにこの分岐点の話でした。顧客を知ることのゴールは、顧客に好かれることでも、要望に応えることでもありません。時に顧客自身の現状認識を否定してでも、顧客の利益の側に立つことです。
だとすれば、顧客理解の深さは、最後には情報量ではなく覚悟の問題に化けます。どれだけ相手を知っても、知った事実に正直になれなければ、その知識は使われないまま眠ります。逆に、深く知っているからこそ、「あなたのこの状態は、会社として適正だと思えません」と正面から言えます。真に顧客を知るとは、相手に嫌われるかもしれないリスクを引き受けてでも、相手のために本当のことを言える地点まで、理解を積み上げることなのだと思います。知ることの終わりは、物知りになることではなく、踏み込む勇気を持てるところにあります。
Noteも書いてます
営業を"言語化""構造化"する話を、ゆるめに。

