営業効率化の進め方|可視化から分子を増やす発想まで

営業効率化を進める上で必要なのは何においても業務を可視化することにあります。どのような業務を営業が担当しているのかということを時間軸で整理することが必要です。可視化した後に、本当に必要な業務なのか、もしくは営業じゃないと担当できないかなどにふるいにかけていく作業に移ります。だいたい目安として10%程度の工数削減が見込めるのであれば、効率化施策として取り組む魅力的な対象といえるでしょう。

営業マンが営業に専念できていない側面

株式会社日本能率協会コンサルティングが実施した「営業マンの有効活動時間の拡大ポイントとは」というアンケートにおいて、日本と米国の営業マンの時間の使い方に関する質問で興味深い回答結果がありました。日本の小売店営業マンは「顧客との面談時間」で31%の時間しか使っていないのに対して米国の営業マンは同41%の時間が使われています。逆に「書類整理と会議に要した時間」が日本の小売店の営業マンは41%で、日本の生産材の営業マンにおいては実に54%の時間を使っているのに対して米国の営業マンは20%しか使っておりません。いかに日本企業において営業効率化を実現する必要があるかということを示す貴重なデータと言えます。

営業効率化のポイントは業務の可視化

営業効率化を始めるタイミング

事業が成長し、営業組織が一定規模になったタイミングで必ずと言っていいほど、検討テーマにあがるのが「営業効率化」です。特に、別の組織からの異動で新しい組織長が任用されたタイミングだったり、営業エキスパートを転職で勝ち取ったタイミングなどで、他社事例を横展開すべく議論に上がります。

そして多くの営業効率化の施策は、大きな結果を生み出すことなく、尻すぼみになって終わってしまうことが多いように思います。実際、営業効率化について、このようなタイミングで始めるべきである、というものはありません。現場が疲弊していたり、過去と比較して目に見えて生産性が悪くなっていると感じた時に、必要に応じて、する。それでよいと思います。

業務の可視化

営業効率化を始めるにあたって、必要なことは、まず営業業務を可視化することです。言い換えると、営業現場の現状を捉えることです。そして図に落としこみ、業務の前後関係など含めて、全体像を捉えることが必要です。実際の可視化の例を挙げると、下記のような項目について整理することが可視化する、という行為に該当します。

  • 例えば、営業がお客様のアポをとる、アポをとるのはどのような手法でとっているのか、どのような目的でアポを設定するのか。
  • アポが決まったあと、アポまでに営業はどんな準備をするのか、どのような資料を作るのか、またその時の資料はどのような考え方に基づき、どのような内容が盛り込まれているのか。
  • 実際の営業前の準備として、会社として定められたルールに則った入力箇所や報告義務などはないか。
  • 営業のその場において、営業はどのような内容の話をクライアントとしているのか。またそもそものアポの目的は達成されたのか、また達成したかどうかを営業はどのような指標をベースに判断しているのか。
  • 営業がアポから戻ってきたあと、営業は次にどのようなタスクをこなすのか。上長に対してどのようなフォーマットで報告をしているのか。クライアントに対して、アポ後どのようなコミュニケーションをとっているのか。
  • また受注したのであれば、受注後にどのような作業が発生しているのか。納品物の納品にあたり、営業はどのような関わり方をしているのか。
  • 納品後のフォローに対して営業はどのような関わり方をしているのか、また請求業務や入金処理について、営業はどう関与しているのか。

などを複数の営業にヒアリングをしたり、営業のスケジュールを確認したりしながら、実際の営業行動に沿って時間軸で整理していきます。また、実際の営業活動以外にも、営業マンは営業内の会議やチーム会、朝礼や終礼、目標に関する進捗確認のミーティングなど、社内業務においてもかなりの時間を割いているはずです。まずはそれを全て可視化・見える化します。

可視化したものをふるいにかける

可視化したものを、以下の2つの視点でふるいにかけていきます。

  • 本当に必要か?
  • その業務は営業じゃないとできないか

本当に必要かを問いかける

おそらく、営業組織が組成されて3年たっていれば、確実に無駄もしくは役にたっていない業務が一つは慣習として残っています。それらを評価する観点として「やめたときに誰が困るのか」「やめたときに、売上は下がるのか?」の二点。シンプルにこの二点だけで評価します。

他にもやめない理由を探し出せば、いくつでも見つかってしまい、それではいつまでたっても前に進まないので、誰も困る人がいなくて、売上影響がないのであれば、すぐにやめます。特に、前者のやめたときに誰が困るのか、については、その人が困る先に誰が困るのか、という観点も必要です。

例えば、営業がその業務をパタッとやめてしまったときに、営業のとりまとめをしている営業マネージャは困る。しかし、その先にいる営業部長に対する報告に対して不備が出るわけでもないし、メンバー管理観点でも大きな影響が出るわけでもない。ただ「自分が知っておくことで安心できる」という理由だけで、困るに該当している可能性もあるためです。困った先に困っている人がいないのであれば、業務は滞りません。安心してやめましょう。

その業務は営業じゃないとできないか

営業効率化の多くはこちら経由で実現されることが多いです。 つまり、営業の1日、1週間、1ヶ月の動きの中で、例えば、時給850円のアルバイトでもできる業務を営業が担当していないか、ということです。 何かしらの入力業務、何かしらのクライアント対応、何かしらの制作業務、報告業務。その一つ一つを本当に営業がやる必要があるのかを考えます。

営業がやる必要があるかどうかの判断軸は、今この場で1時間の引き継ぎや説明をしてしまえば、その後永続的に知見や情報がなくてもできてしまう業務であれば、今すぐにでも、営業ではない人に担当してもらうのがよいでしょう。 それに充当していた時間と営業人数を掛け合わせた数が、営業組織全体で削減・捻出できる工数になります。

営業を効率化したその先にあるものを考える

営業効率化の成功例

  • 営業効率化したときに、営業の残業が減ったため残業代の削減に繋がった。
  • 営業効率化したときに、ひとりあたりの担当社数が増えたため、営業人員の削減に繋がった
  • 営業効率化したために、クライアント訪問数を増やすことができたため、単価UPや受注増に繋がった

営業効率化の失敗例

  • 営業の負荷は確かに減った側面はあるが、業務効率化した副産物として、別の負荷が生まれた。
  • 営業効率化したが、営業マンの数も担当社数も受注単価も変わっていない。

営業効率化の目安は10%の改善

営業効率化施策全体で営業人員を10%削減できる、もしくはひとりあたりの担当社数を10%増やせる。一社あたりの受注が10%増につながる。少なくとも、これぐらいのメドが立たない限りは営業効率化を全体施策として推進するべきではありません。ただの無駄をなくす、という現場の意志決定で無駄を省いている状態にすぎず、いわゆる全体施策として検討コスト、検討時間をかけてやるには割が合わないケースの方が多いでしょう。特に、営業業務をアルバイトなどに寄せる分の単純なコスト増加になってしまうケースも散見されます。

ただしこれは、現場が自分たちの判断で少しでも無駄をなくし、少しでも効率的に業務を遂行しようとすることを否定する見解ではありません。あくまでも中央集権的なやり方で、検討そのものに時間とコストをかけ、現場に大ナタを振るうという形での進め方における営業業務の効率化については、少なくとも10%程度の改善見込みがないと進めるに値しないと思ってよいと思います。

営業の現場では、日々の積み重ねが成果を大きく左右します。本記事で紹介したポイントを振り返り、明日からの業務に少しずつ取り入れていきましょう。

生産性は割り算──分母だけでなく、分子を見る

営業効率化と聞くと、多くの人が「ムダな時間を削る」ことを思い浮かべます。たしかにそれは大事な一歩です。ただ、生産性はそもそも「成果 ÷ 投入」という割り算です。時間という分母を削るのは、割り算の下半分をいじっているにすぎません。伸びしろは、分子=成果の側にもあります。

分子を増やすとは、同じ時間で、より大きな成果を取りにいくことです。その鍵は、案件の選び方にあります。ここまで見てきた可視化は、たいてい「どの業務に何時間かかっているか」を対象にしますが、もう一歩進めて「どの案件に、どれだけ時間をかけ、結果いくら取れたか」まで見える化してみてください。すると、勝ち目の薄い案件に多くの時間を吸われ、有望な案件が手薄になっている、という構図がよく見つかります。実は、見込みの薄い商談を追い続ける時間こそ、最大のムダです。負け筋を早めに見切り、空いた時間を勝てる案件に寄せるだけで、投入時間は同じでも分子は増えます。ムダな作業を削るのと、ムダな案件を見切るのは、両方とも生産性の話です。分母を削る発想に、分子を増やす発想を足します。それだけで、効率化の射程は大きく広がります。

※著者の体験

生産性が「成果 ÷ 投入」の割り算で、分子=成果の側にも伸びしろがある——これは、AIで商談を解析する仕組みを作っていて、いちばん腑に落ちた話です。

私はもともと「商談の勝敗は、営業スキルより、顧客の発注ニーズが整っているかの変数のほうが大きい」という仮説を持っていました。決裁者に会えているか、予算が確保されているか、発注時期が決まっているか——このスキルの外にある変数を、AIに◯件分の商談を解析させてスコア化してみたんです。すると、勝ち目の薄い(発注ニーズが整っていない)案件に、営業の時間の◯割近くが吸われている、という構図がくっきり出てきました。

見込みの薄い商談を追い続ける時間こそ最大のムダ、というのは本当で、スコアの低い案件を早めに見切って、空いた時間を勝てる案件に寄せただけで、投入時間は同じまま受注率が12.5%から18%に上がりました。ムダな「作業」を削るのと、ムダな「案件」を見切るのは、どちらも生産性の話。分母を削る発想に分子を増やす発想を足すと、効率化の射程はここまで広がるのか——とAIのスコアを見ながら実感しました。

可視化と削減を、人ではなく「仕組み」に寄せる

営業ではない人でもできる業務は、営業から外す――この考え方は正しく、効果も大きいです。ここに現代的な補助線を引くなら、「人に寄せる」だけでなく「仕組みに寄せる」という選択肢です。

たとえば可視化そのものを、一度きりの手作業のヒアリングで終わらせないことです。SFAやCRMに商談の状態を入れておけば、誰がどの案件をどこまで進めているかが、常時見える状態になります。日々の入力・報告・議事録づくりのような定型作業は、テンプレート化し、できるものは自動化やAIの下書きに任せます。移動や日程調整のムダも、ツールで圧縮できます。時給の安い人に単純作業を寄せると、その分のコストは増えます。仕組みに寄せれば、初期の手間はかかっても、後は人件費を増やさずに効率化が持続します。判断のいらない作業は仕組みへ、判断のいる仕事は人へ。この線引きで棚卸しをやり直すと、「アルバイトに寄せる」よりもう一段深い効率化が見えてきます。捻出できる工数は、外に出す人数ではなく、仕組みで消せる作業量で決まります。

※著者の体験

営業の定型作業を「人に寄せる」のではなく「仕組みに寄せる」——これは、私がここ数年ずっと取り組んできたテーマそのものです。具体的には、商談の文字起こしをAIに解析させ、そこからお礼メールの下書き・議事録・顧客管理シートへの入力までを自動で作る仕組みを、GAS(Google Apps Script)とAIのAPIを組み合わせて自作しました。

それまで営業一人あたり、お礼メール1通に10分、議事録に20分かかっていたのが、下書きが自動で上がってくることで「確認して直すだけ」になった。月30件の商談で計算すると、営業組織全体で月150時間ほどが浮きました。時給の安い人に単純作業を寄せると人件費は増えますが、仕組みに寄せれば初期の手間はかかっても後は人を増やさずに効率化が持続する——まさにそのとおりでした。

ただ正直に書いておくと、いちばん難しかったのは仕組みを作ることではなく「使ってもらうこと」でした。判断のいらない作業は仕組みへ、判断のいる仕事は人へ、という線引き自体は正しいのに、既存のやり方への慣れやAIへの警戒感で、現場に定着させるまでが本当の勝負でした。捻出できる工数は仕組みで消せる作業量で決まる——これは、作って・使わせて、ようやく体で理解したことです。

受注管理の仕組み化について知見を広げたい方はこちら。属人化を減らし、案件を取りこぼさなくなります。

→ クラウドの受注管理システムでできること|機能表の先を読む──クラウドの利点、定着する運用、つないで効く一元化

営業企画の設計について知見を広げたい方はこちら。場当たりでなく、勝ち筋を設計できます。

→ 「営業のPDCAを確実に高速で回す」営業企画の「Plan(設計)」のお仕事とは|設計という仕事の輪郭──マーケとの違い、目標のつくり方、そして必要な力

組織を待たず、自分の時間から変える

ここまでは、組織として大ナタを振るう効率化の話でした。ただ、専任のプロジェクトや号令がなくても、個人が今日から自分の生産性を上げることはできます。むしろ、現場の一人ひとりがこれをやれるかどうかが、組織全体の生産性を静かに左右します。

やることはシンプルで、まず自分の一週間を、先ほどの日米比較のように時間で棚卸ししてみることです。顧客との面談に使えている時間は、全体の何割か。書類作成や社内会議、移動に、どれだけ吸われているか。数えてみると、たいていの人が「思ったより商談に時間を使えていない」ことに気づきます。そこから、資料作成は使い回せる型を用意して時間を圧縮する、事務仕事はまとめて一気に片づける、頭が冴える時間帯は商談準備という頭を使う仕事に充てる、といった小さな組み替えを積みます。一つひとつは些細でも、面談時間の比率が数%上がれば、それはそのまま成果の伸びしろになります。効率化は、組織が始めてくれるのを待つものではありません。自分の時間の使い方を見える化する——その一歩は、今日から一人で踏み出せます。

そもそも、削って作った時間を「何に使うのか」

ここまで、分子を増やす視点、仕組み化、個人の時間術を見てきました。最後に、営業効率化という営みの、その先にある問いを立てておきたいと思います。

効率化の議論は、「営業の時間を、営業以外の業務から、営業本来の活動へ移す」ことをゴールに据えがちです。ムダを削り、非営業業務を外し、商談に使える時間を増やします。ここまではよいのです。けれど、本当に問われるのはその先です。削って捻出したその時間を、いったい何に使うのか。ここを設計しないまま効率化だけを進めると、増えた時間はただ商談件数を増やすことに流れていきます。それは「量」の生産性であって、割り算の分子は思ったほど伸びません。捻出した時間を、今まで手が回らなかった質の高い活動――深い顧客理解、仮説の作り込み、長い目で見た関係づくり――に投資して初めて、生産性は跳ねます。効率化は目的ではなく、時間という原資を作るための手段です。作った原資の使い道を描かなければ、効率化は「暇を作っただけ」で終わります。

そして、もう一つ厄介な逆説があります。効率を突き詰めていくと、一見ムダに見える活動まで、片っ端から削りたくなることです。目的の見えない雑談、成果につながらなかった訪問、失注した案件に費やした時間――これらは、効率の物差しではすべて「ムダ」に分類されます。しかし営業の成果には、その場では測れない仕込みの時間が含まれています。何気ない雑談から数年後の大口案件が生まれたり、失注から得た学びが次の勝ち筋になったりします。すべてのムダが、悪いムダとは限りません。効率化の本当に難しいところは、「どのムダを削るか」ではなく、「どのムダは、実は未来への投資なのか」を見分けることにあります。削ってはいけないムダまで刈り取ってしまえば、短期の効率と引き換えに、長期の成果の芽を摘むことになります。

だとすれば、営業効率化の成否は、削減率の数字だけでは測れません。どれだけムダを削ったかと同じくらい、削って作った時間をどこに投じ、どのムダを未来のためにあえて残したか。効率という物差しの外にあるものを見失わないこと――そこにこそ、単に忙しさを減らすだけの効率化と、成果そのものを伸ばす生産性向上を分ける境目があるのだと思います。

※著者の体験

削って作った時間を「何に使うのか」——この問いは、AIで営業の作業を効率化する仕組みを現場に入れて、いちばん痛感したことです。

お礼メールも議事録も、提案書の下書きまでAIに任せられるようにして、営業一人あたり月15時間ほどが浮きました。ところが、その浮いた時間がどこに流れたかというと、多くは「商談件数を増やす」「提案書の枚数を増やす」方向でした。提案の量を最大化する、という現場の文化そのものが、増えた時間を“量”に吸わせてしまったんです。それは量の生産性であって、割り算の分子は思ったほど伸びませんでした。

本当は、捻出した時間を、それまで手が回らなかった質の高い活動——深い顧客理解、仮説の作り込み、長い目で見た関係づくり——に投資して初めて、生産性は跳ねます。効率化は目的ではなく、時間という原資を作るための手段にすぎない。AIで原資を作るところまではできても、その使い道を設計しないと「暇を作っただけ」で終わる——この順番の難しさは、ツールを作った側だからこそ、身をもって思い知りました。

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筆者:店長

営業と、競馬と、しゃべる植物。あっAIも。つい、いろいろ作ってしまう人です。

→ 店長の正体(詳しいプロフィール)

店長

Xアカウント:@nishi_sales_ai 新卒で大手IT企業に入社し、飛び込み営業から深耕営業、大手企業担当まで第一線で経験を積む(表彰歴多数)。その後、事業企画・営業企画部門で経営に近い立場から営業組織と数字に向き合い、10年勤続を経て独立。営業組織の改善に特化したコンサルタント企業を立ち上げる。 コンサルタントして数々の現場に入りつつ、自ら営業特化の転職エージェントも運営。近年はAIを活用した営業組織の業務改善・生産性向上プロジェクトに携わる。現場の最前線と経営の両方を見てきた視点から、営業3年目前後がぶつかる壁を越えるための実践知を発信する。

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