クロスセル提案の進め方|BtoBは1社ごとの4段取りで通す

既存顧客に別の商材も提案してほしい、と言われたものの、最初の一歩が踏み出せない。対象顧客のリストは作ったのに、そこから先へ進まない。BtoBのクロスセルでよく起きるのは、この止まり方です。本記事では、施策としての手順ではなく、目の前の1社に提案を切り出して着手まで通すための段取りを扱います。

クロスセルの「進め方」は、施策の手順ではなく1社ごとの段取り

「クロスセルの進め方」を調べると、多くの記事が同じ手順を示します。既存顧客をリスト化し、利用状況や満足度を調べ、課題を把握したうえで提案する、という流れです。この手順が間違っているわけではありません。誰に声をかけるのかを決めないまま動けば、担当している顧客すべてに同じ話を持っていくことになり、それこそが押し売りになります。対象を絞り込む工程は、たしかに必要です。

ただ、多くの営業担当者が止まるのは、その先です。リストは作った。利用状況も見た。それでも、目の前のこの会社に、いつ、誰に、何と言って切り出せばいいのかが分かりません。結果として手元に残るのはリストと分析だけで、提案は一件も出ないまま期が終わります。世に出回る手順は、提案先を選ぶところまでを担当していて、提案そのものの手前で終わっているのです。

クロスセルの成否を分けるのは、施策の精度ではなく、1社ごとの段取りの通し方です。BtoBの提案は、その場で買ってもらう行為ではありません。切り出し、検討、社内稟議、着手という複数の接点を、顧客側の都合に合わせて順に通していく行為です。接点が複数あるということは、飛ばせない順番があるということでもあります。本記事が扱うのは、施策の手順ではなく、この1社ごとの段取りです。

そもそも「進め方」という言葉には、二つの意味が同居しているのかもしれません。ひとつは、どの顧客に何を出すかを決めるための設計図としての進め方。もうひとつは、決めた相手に実際に話を通していくための段取りとしての進め方です。解説の多くが前者に寄るのは、それが正しいからというより、前者だけが自社の机の上で完成するからではないでしょうか。リストも分析も、書き終えた時点で一応の完成形になります。段取りのほうは、相手が動かない限り一行も進みません。答えの出しやすいほうへ言葉が引き寄せられていくうちに、進め方という語が指す範囲が、いつのまにか自社の内側で完結する作業に狭まっていきます。

もう一段引いて見ると、手順を知ることが、かえって動けなさをつくっている面もありそうです。手順が示されると、まだリストが粗い、分析が足りない、という理由をいくらでも立てられます。準備の段階には終わりがなく、しかも準備をしている間は何も壊れません。すでにある関係を担保にして別の話を持ち込むという怖さを抱えた側にとって、手順は前に進むための地図であると同時に、進まないでいるための正当な理由にもなります。だとすれば、完成させる対象を入れ替える必要があります。自分の机の上で仕上がるもの(リスト・分析)ではなく、相手の側でしか起きないこと(顧客が困りごとを口にした、社内で検討の日程が決まった)のほうを、進んだ/進んでいないの基準に置く。段取りという言葉が扱っているのは、机の上では終わらないほうの半分です。

BtoBのクロスセルが、新規開拓とも値上げ交渉とも別物になる理由

用語の整理から始めます。クロスセル、アップセル、ダウンセルは、いずれも既存顧客への提案ですが、顧客の何に働きかけるかが違います。既存顧客への拡大が重視される理由もあわせて押さえておくと、この後の段取りの意味が分かりやすくなります。新規開拓に比べて接点をつくる手間がかからず、取引の継続期間を通じた売上に効き、複数の商材で関わることが結果的に解約の抑止にもつながるからです。

種類顧客に対して何をするか典型的な場面
アップセル同じ成果を、より広く・より深く拡張します利用部署や利用量を増やす、上位プランへ移る
クロスセル隣の課題を、別の商材で解きます今の商材の前後の工程を自社で引き受ける
ダウンセル条件を下げて、取引の継続を優先します予算縮小時に範囲を絞って継続する

そのうえで、クロスセルだけが特殊な点があります。新規開拓は断られても失うものがありません。値上げ交渉は同じ商材についての条件の話です。クロスセルはそのどちらでもなく、すでに築いた信頼を担保にして、まだ関係のない話を持ち込む行為です。だからこそ、思いつきで切り出すのではなく、段取りが要ります。

何を提案するかを決める — 自社商材でなく顧客の「隣の工程」から

段取りに入る前に、決めておかなければならないことがあります。そもそも、その顧客に何を提案するのかです。ここを自社の商材ラインナップから決めてしまうと、後に続く段取りがすべて空回りします。提案の中身が顧客の状況と噛み合っていなければ、どれほど丁寧に切り出しても、商材の紹介にしか聞こえないからです。この章では、提案する商材の決め方を、自社起点から顧客の業務工程起点へ反転させます。反転といっても難しい話ではなく、自社が今担っている工程の前後に目を向ける、というだけのことです。

売りたい商材から始めると、関連性の説明に終始する

自社の商材一覧を眺めて「この顧客にはどれが売れそうか」と考える。これが最も一般的な始め方であり、最も詰まりやすい始め方でもあります。この順番で考えると、提案は必然的に「この商材が、御社のこういう課題にも関係があります」という関連性の説明になります。売りたいものが先にあって、理由が後から付くわけです。

顧客の側からは、この構造がよく見えています。自分が困っていると言った覚えのない話について、関係があると説明されている。それが押し売りの正体です。多くの記事が注意点として挙げる「関連性を明確にする」という助言も、商材起点のまま実行すれば、関連性を後付けする作業になってしまいます。順番を入れ替えない限り、押し売りにするなという指摘は実行できない精神論のまま残ります。

隣の工程の詰まりを見つける3つの問い

反転の具体は、顧客の業務工程を前後に広げて見ることです。次の3つの問いに答えられれば、提案すべき商材はおのずと絞られます。第一に、いま自社が担っている工程の前後で、誰が何をしているのか。発注前の準備や納品後の処理を、顧客の誰かが手作業で抱えていないかを見ます。第二に、自社の成果がその先で止まっていないか。納品したものが次の工程で活かされていないなら、その断絶がそのまま隣接する課題です。第三に、顧客はその工程を別のベンダー、内製、手作業のどれで埋めているのか。埋め方が苦しいほど、提案の余地があります。

答えは新しく聞き出すのではなく、これまでの商談メモから拾えるものが少なくありません。工程、担い手、詰まっている点、自社で埋められるかどうかの4列で書き出してみると、埋まらない欄が見えてきます。ここで挙げた詰まりは、あくまで自社側の仮説です。この仮説が、次章の段取り2で顧客の口から出てくる言葉と一致するかどうかを、後で必ず検証します。

※著者の体験

顧客の隣の工程を見る、という言い方を、私は長いあいだ逆向きにしていました。

採用広告の代理店側にいたころ、手元で扱える商材は求人媒体からダイレクトリクルーティング、採用代行まで並んでいて、担当している企業に次は何を出すかを、私はその並びを上から眺めて決めていました。今から思えば、提案が出てくる順番は顧客の採用の状況ではなく、私が持っていた商材一覧の並び順とほとんど同じでした。すでに掲載いただいている企業にもう一つ出すときも、私が話し始めるのは商品の説明からで、相手が実際に何に時間を取られているのかは、その日の会話の後半でようやく出てくることが多かったように思います。

不思議だったのは、話が前に進んだ回ほど、用意していった商材と実際に提案することになった商材が食い違っていたことです。掲載のご相談で伺ったのに、詰まっていたのは応募が来たあとの処理のほうだった、というような。

自分の提案が商材ありきだったと認めるのは、当時はけっこう嫌でした。順番の話だと気づくまで、私はそれを自分の提案力の問題として考えていた気がします。

クロスセル提案の進め方 — 4つの段取り

ここからが本題です。提案する商材の見当がついたら、次はそれをどの順で通すかを決めます。BtoBのクロスセルは、切り出したその場で決まることがほとんどありません。顧客の担当者が納得し、試せる形にまで落ち、社内で説明されて、ようやく着手に至ります。この流れを4つの段取りに分けます。順に見ていく前に押さえておきたいのは、段取りを飛ばしても先に進めたように見えるだけで、必ず前の段取りに戻される、という原則です。成果の確認を飛ばした提案は「今のものも使いこなせていない」と言われ、顧客の言葉を待たずに出した提案は検討にすら乗りません。

段取り目的その場で出すもの次に進んでいい条件
1 いまの成果を一緒に確認する現契約が機能していることを共有しますこれまでの利用状況と成果の振り返り顧客自身が役に立っていると言葉にしたこと
2 隣の困りごとを顧客の言葉にする提案の起点を顧客側に置きます前後の工程についての問い顧客が自分の言葉で困りごとを口にしたこと
3 小さく試せる形に切る検討と決裁の負荷を下げます範囲・期間・対象部署を限定した案顧客が試す範囲を具体的に指定してきたこと
4 稟議に乗る1枚にして渡す担当者が社内で説明できるようにします費用と変化を並べた1枚社内で検討する日程や相手の名前が出たこと

段取り1・2|いまの成果を一緒に確認し、隣の困りごとを顧客の言葉にする

段取り1は、いまの成果を顧客と一緒に確認することです。クロスセルの入口は新しい話ではなく、現契約の振り返りにあります。今の商材で何がどう変わったのかを顧客と共有できていない状態で別の話を持ち出せば、売りに来たとしか受け取られません。逆に、成果が確認できた場では、その先の話が自然につながります。更新時期や成果を実感した直後がクロスセルの好機だと言われるのは、その時期に振り返りの会話が発生するからです。タイミングの見極めそのものについては、別記事「アップセルのタイミングの見極め」で詳しく扱っています。

段取り2は、隣の困りごとを顧客自身の言葉にしてもらうことです。前章で仮説として持っている詰まりを、こちらから言い当ててはいけません。言い当てた瞬間、それはこちらの主張になり、顧客は判定する側に回ります。聞くのは前後の工程の話です。誰がどう処理しているのか、そこに手間はかかっていないのか。顧客が自分の言葉で困りごとを口にした瞬間に、初めて提案が提案として成立します。仮説が外れていたと分かることにも価値があります。外れたまま提案するより、はるかに前に進んでいます。

段取り3・4|小さく試せる形に切り、稟議に乗る1枚にして渡す

段取り3は、小さく試せる形に切ることです。BtoBの別商材は、いきなり本契約になりません。今の商材で信頼があるとしても、別商材については実績がゼロの状態から始まります。だからこそ、対象範囲、期間、対象部署のいずれかを絞って出します。切れない商材ほどこの段取りで止まりますので、どこで切れるのかは提案の場ではなく、事前に社内で用意しておく必要があります。この準備は次章の社内の段取りと直結します。

段取り4は、稟議に乗る1枚にして渡すことです。顧客の担当者には、社内で説明する場面が必ず訪れます。その場に自社の営業は同席できません。したがって、担当者が自分の言葉で説明できる材料を渡すことが提案の最後の仕事になります。費用と、それによって何がどう変わるのかを、同じ1枚に並べます。費用だけの見積書と、効果だけの提案書が別々に存在していると、担当者は自分で突き合わせる作業を強いられ、そこで案件が止まります。担当者を社内で説明する人として支援すること、それがBtoBの提案です。

なお、段取りが進んだかどうかは、こちらの手応えでは判断できません。反応が良かった、前向きだった、という感触ではなく、顧客の側で次の行動が起きたかどうかで見ます。

切り出し方 — 「売り込みに来た人」にならない一言

段取りを頭で理解しても、実際に口を開く場面では手が止まります。恐れているのは概念ではなく、その場で口にする一言だからです。今の商材の担当として良い関係が築けているほど、そこに別の話を持ち込んで「この人は売りに来る人だ」と思われることが怖くなります。ですから、言葉のレベルまで降ろします。

避けたいのは、商材の名前から入る切り出しです。「実は別のサービスもありまして」「今キャンペーンをやっていまして」という入り方は、自社の都合が先に立っています。機能するのは、前後の工程について尋ねる形か、成果の確認の延長として聞く形です。共通しているのは、商材の名前を最初に出さないことです。名前を出すのは、顧客が困りごとを口にした後で構いません。

あわせて、「今は必要ない」という答えを最初から選択肢として置いておきます。断ってもいい場だと分かるほど、顧客は本音を出します。逃げ道を塞いだ会話からは、断りにくさによる曖昧な返事しか返ってきません。

断られたときに、関係と情報の両方を残す返し方

断られること自体は失敗ではありません。断りは否決の宣告ではなく、どの段取りで止まったかを教える情報です。予算がないのか、優先順位が低いのか、そもそも困っていないのか。理由が違えば、次にやることも変わります。ここを聞かずに引き下がると、次の一手が決まらないまま同じ提案を繰り返すことになります。

その場でやることは2つだけです。1つは、何が理由で今回は難しいのかを確認すること。もう1つは、いつなら状況が変わりうるのかを聞くことです。それ以上は取りに行かず、素直に引きます。粘って別の切り口を重ねると、その場は関係を保てたように見えても、次から前後の工程の話ができなくなります。ここで引けるかどうかが、次回も話を聞いてもらえるかどうかを決めます。断られた案件は、失注ではなく、時期の情報が付いた案件として手元に残ります。

※著者の体験

断られる側ではなく、断る側にいたときの話をします。

自分でサービスを申し込んだり、説明を聞くだけ聞いたりする立場で、私は「今は必要ないです」と何度も言ってきました。あの一言を口にしたとき、自分の中に断る理由がきちんと立っていたかというと、正直そうではありませんでした。必要ないと判断したというより、その場をいちばん角を立てずに閉じられる言い方がそれだった、というほうが近い気がします。予算の話なのか、時期の話なのか、そもそも困っていなかったのかは、自分でも分けられていませんでした。

そして、そのあとに理由や時期を聞かれた記憶がほとんどありません。たいていは「承知しました、また何かありましたら」で終わります。もし聞かれていたら、私はその場で考えながら答えたはずで、相手の手元にも自分の中にも、いまとは違うものが残っていたのだろうと思います。

断る側の言葉は、口に出た時点ではまだ何も決まっていないのかもしれません。少なくとも私の「今は必要ないです」は、そういう言葉でした。

社内の段取り — 他部門の商材を出す前に揃える4点

ここまでは顧客に向けた段取りでした。ただ、BtoBのクロスセルは、顧客に断られるより社内で止まることのほうが多いのが実情です。他部門の商材を自分の担当顧客に出すという行為は、組織をまたぎます。顧客が興味を示した後になって、見積が出せない、納期が読めない、誰が担当するのか決まらない、という事態に陥ると、それまでに積み上げた段取りが一度に崩れます。しかも崩れ方が悪く、顧客からは「できると言ったのにできない会社」に見えます。だからこの社内の段取りは、顧客に提案する前に済ませておく必要があります。揃えるのは次の4点です。

揃えるもの決めておく内容曖昧なまま進めるとどうなるか
主担当提案後の窓口を誰が持つのか顧客からの問い合わせがたらい回しになります
見積値決めの権限と、既存契約との合算の扱い金額の話になった途端に返答が止まります
納期・供給引き受けられる時期と量できると言った後で出せない事態になります
売上計上・評価誰の数字になり、誰の成果になるのか他部門が動く理由を持てず、協力が得られません

主担当と責任分界を、顧客に出す前に決めておく

4点のうち、最初に決めるべきは主担当です。クロスセルが決まると、顧客の側には「今の商材の担当」と「新しい商材の担当」が並びます。社内から見れば当たり前の分担ですが、顧客から見れば、窓口が1人から2人に増えたということです。この瞬間に満足度が下がるのが、BtoBのクロスセルで最もよく起きる失敗です。何かあったときにどちらへ連絡すればいいのかが分からず、両方に同じ話をする手間が生まれるからです。

決めるべきは、どちらが全体を持つのかという一点です。個別の商材はそれぞれの担当が見るとしても、顧客との関係全体に責任を持つ人を1人決めておきます。あわせて、どこからどこまでを誰が引き受けるのかという責任の分かれ目も、提案の前に言葉にしておきます。提案が通ってから決めようとすると、決まらないまま顧客対応が始まり、対応の遅れという形で表に出ます。

※著者の体験

担当を決めておく、という話を、私はシステムの側から見たことがあります。

営業管理の基盤を自分で作っていたとき、最初に決めなければならなかったのが、1件をどの単位で数えるかでした。私は案件単位を選びました。商材ごとに金額も進み方も違うので、そのほうが素直に扱えるからです。その結果、同じ会社に別々の商材が並ぶと、画面の上ではつながりのない行が2つ並ぶことになりました。担当者の欄はそれぞれの行に付いていて、その会社そのものを誰が見ているのかを表す列は、どこにも作りませんでした。

日次でデータを回して、案件の動きを時系列で追えるところまで作り込んでいたのに、一社に何人が関わっているのかだけは、行を目でつなげないと分かりません。設計した本人が必要だと思わなかったのだから、その画面を見ている誰かが自然に気づくこともなかったはずです。

決まっていないことは、たいてい何にも表示されません。私はそれを、自分で作った画面のほうで見落としていました。

顧客の側からは「1社」に見えているか

もう1つ確認しておきたいのが、社内の都合が顧客に透けていないかどうかです。別部署が担当している、別のシステムで管理している、請求書が分かれている。こうした事情は自社にとっては当然でも、顧客にとっては関係のない話です。それが見えてしまうと、提案の内容以前に、この会社は連携が取れていないのではないかという疑いが生まれます。すでにある信頼を担保にして別の話を持ち込むのがクロスセルですから、担保そのものが目減りしてしまいます。

確認するのは、提案書、請求、問い合わせ窓口の3点です。提案書が商材ごとにばらばらの体裁で出ていないか。請求が別々に届いて、顧客の経理に余計な処理を強いていないか。問い合わせ先が商材ごとに違っていないか。社内プロセスの一貫性という言い方をされるものを、担当者が明日確認できる粒度に落とすと、この3点になります。すべてを一本化できなくても、顧客に説明できる形になっていれば十分です。

進め方は「提案件数」でなく「段取りの通過」で管理する

段取りに分けたなら、進捗の見方も変える必要があります。クロスセルを推進するとき、最も安易な管理は提案件数を数えることです。しかしこれをそのまま指標にすると、段取り1と2を飛ばした提案が増えます。成果の確認も、顧客の困りごとの言語化も経ないまま、件数を満たすために商材の話を持ち込む。つまり、この記事が避けようとしてきた商材ありきの押し売りに、管理の側から引き戻されるわけです。数えるべきなのは提案した回数ではなく、担当している各顧客がどの段取りまで通過したかです。

管理表は複雑にする必要がありません。顧客名、段取り1から4のどこまで通過したか、止まっている理由、次に確認する日。この4つの列で足ります。重要なのは、通過の判定を手応えではなく事実で行うことです。顧客が成果を言葉にしたか、困りごとを自分から口にしたか、試す範囲を指定してきたか、社内で検討する日程が出たか。前章までに置いた「次に進んでいい条件」が、そのまま判定基準になります。

止まっている段取りが分かれば、次の一手が決まる

この管理の価値は、止まっている場所ごとに打ち手が違うことが見えるところにあります。段取り1で止まっているなら、今の商材の成果がまだ出ていないということですから、提案ではなく改善が先です。段取り2で止まっているなら、顧客の前後の工程を知らないということですから、商材の決め方に戻ります。段取り3で止まっているなら、商材が小さく切れていないということで、これは顧客側ではなく社内の課題です。段取り4で止まっているなら、担当者が社内で説明する材料が足りていません。

このように分けておくと、提案が出ないという同じ現象に対して、まったく違う手当てが必要だと分かります。マネージャーにとっても意味があります。なぜ提案が出ないのかを気合いの問題として問い詰める代わりに、どの段取りで止まっているのかを一緒に確認できるからです。止まっていること自体は問題ではありません。どこで止まっているか分からないまま件数だけを追うことが問題です。

よくある失敗と、その手前で止まるための問い

最後に、ここまでの段取りを踏まえて、典型的な失敗を確認しておきます。いずれも、どこかの段取りを飛ばしたときに起きるものです。あわせて、実行に移す手前で自分に投げかけられる問いを添えます。

  • 担当顧客へ一斉にメールで提案してしまう。→ この顧客が自分の言葉で困りごとを話したのは、いつのことでしょうか。
  • 期末に自社の都合で提案を出す。→ 今この時期に出す理由は、顧客の側にあるでしょうか。
  • 今の商材に不満が出ている最中に別商材を出す。→ 現契約の成果を、顧客と一緒に確認できているでしょうか。
  • リストと分析だけを作り込んで、提案に至らない。→ 明日、どの1社に、何と言って切り出すのかが決まっているでしょうか。
  • 社内調整を後回しにして、顧客に「できます」と言ってしまう。→ 主担当、見積、納期、売上計上の4点は揃っているでしょうか。

まとめ

クロスセルの進め方は、施策の手順ではなく1社ごとの段取りです。何を提案するかは自社の商材一覧からではなく、顧客の隣の工程から決めます。提案は、成果の確認、困りごとの言語化、小さく試せる形への切り分け、稟議に乗る1枚という4つの段取りで通します。他部門の商材であれば、主担当と見積と納期と売上計上を提案の前に社内で揃えておきます。そして進捗は提案件数ではなく、段取りの通過で見ます。

次の一歩は、担当顧客を1社選び、その会社の前後の工程を書き出してみることです。リストを眺めるより、はるかに早く提案の形が見えてきます。

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筆者:店長

営業と、競馬と、しゃべる植物。あっAIも。つい、いろいろ作ってしまう人です。

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店長

Xアカウント:@nishi_sales_ai 新卒で大手IT企業に入社し、飛び込み営業から深耕営業、大手企業担当まで第一線で経験を積む(表彰歴多数)。その後、事業企画・営業企画部門で経営に近い立場から営業組織と数字に向き合い、10年勤続を経て独立。営業組織の改善に特化したコンサルタント企業を立ち上げる。 コンサルタントして数々の現場に入りつつ、自ら営業特化の転職エージェントも運営。近年はAIを活用した営業組織の業務改善・生産性向上プロジェクトに携わる。現場の最前線と経営の両方を見てきた視点から、営業3年目前後がぶつかる壁を越えるための実践知を発信する。

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