接待と女性営業|性別で役割を期待しない場の作り方とカスハラ対策

「求められた立ち位置を見極めて応じる」という発想を、まず手放す

接待の場では、性別によって役割を期待されることがあります。お酌をする、場を明るくする、相手を立てる。こうした空気を「察して合わせるのが営業だ」とする考え方は、長く語られてきました。しかし今は、その発想そのものを一度手放す必要があるのではないでしょうか。営業としての価値は、提案の質と成果で決まるもの。性別を理由に割り振られた役回りに応えることではありません。

そもそも、発注する側が相手の性別を理由に特定の振る舞いを期待すること自体が、もう当たり前ではなくなっています。「男性ばかりの場に華が欲しい」といった理由で同席者を選ぶこと。これは本人の能力とは無関係なところで負担を強いる行為です。求められた役割をうまく見極めて応じられるかどうか。それを個人の処世術として語る時代は、静かに終わりつつあるのかもしれません。

2025年の法改正で、接待の気まずさは「会社が引き取る」問題になった

ここが、これまであまり語られてこなかった大きな変化です。2025年6月に改正された労働施策総合推進法によって、カスタマーハラスメント対策が事業主の措置義務とされました(施行は2026年10月)。注目すべきは、その定義に「取引の相手方」や「事業に関係を有する者」の言動が明記されている点です。つまり、取引先からのハラスメント、いわゆるBtoBのカスハラも、はっきりと対象に含まれているということです。

これが意味するのは、こういうことです。接待の席で取引先から性的な言動を向けられたり、執拗にお酌を求められたり、本気で言い寄られたりした時、それを本人が機転でかわすべき「個人技」として扱う時代ではない。従業員を一人でも雇うすべての企業が対象となり、会社は基本方針の明確化、相談体制の整備、対応手順の策定を求められます。「お客様だから我慢する」「うまく受け流すのが営業の腕だ」。そんな言葉で個人に押し付けることは、これからは会社側の不作為と受け取られかねません。

裏を返せば、これまで個人が抱え込んできた「断ったら取引に響くのではないか」という不安を、会社の仕組みとして引き取れるようになった、ということでもあります。社員が相談したことで評価が下がったり、担当を外されたりしない建て付けをつくる。問題のある取引先には、必要に応じて上席や法務も交えて会社として向き合う。個人の我慢で取引をつなぎとめるのではなく、組織として線を引く。これが措置義務を実務に落とした時の中身です。

上司と発注側がやるべきは「場の設計」——個人に丸投げしない

では具体的に何が変わるのか。鍵は、振る舞いを個人に委ねるのではなく、主催する側が場をどう設計するかに移ります。誰を接待に出すかを性別で決めない。二次会まで付き合わせない線引きをあらかじめ決めておく。中座できる口実をつくる、必ず同席者を付けるといった逃げ道を事前に用意しておく。そして何より、取引よりも自社の従業員を優先するという基本姿勢を、上司がきちんと言葉にしておくことです。たとえば接待の前に、「今日はこの時間で切り上げる」「この話題には立ち入らない」と同行者の間で共有しておく。それだけでも、現場での判断は驚くほど楽になります。困った時にどう合図を出すかを決めておくのも、有効な備えと言えるでしょう。

これは発注する側の企業にとっても、決して他人事ではありません。自社のカスハラ対策の射程には、「自社の社員が取引先の担当者にハラスメントをしていないか」も当然含まれてくるからです。接待そのものも、オンライン会食や昼の会食へと形を変え、夜の酒席を前提としない関係構築が広がってきました。場のあり方そのものが、ここ数年で確実に動いているのです。

それでも会食に価値が残るとすれば、「性別」と切り離した時だけ

ここまで読むと、接待を全否定しているように見えるかもしれません。しかし、そうではありません。かしこまった商談では出てこない本音や、現場の本当の困りごとが、食事の席でぽろりと出ること。これは確かにあります。その価値自体は、今も失われていません。

ただし、その価値は「華を添える」ことから生まれるのではありません。相手の事業に関わる話題を一つ用意していく。前回聞いた課題の続きから話す。こうした、誰がやっても積み上げられる関係構築から生まれるものです。性別による役割に頼った距離の縮め方は、担当が変わった瞬間に消えてしまう、もろいものです。会食を営業の武器にしたいのであれば、性別とは切り離したところで、その人ならではの価値を置いてくる。それが、批判にさらされることなく、かつ長く続いていく、これからの接待との付き合い方ではないでしょうか。

終わりに

女性として接待の場でどのように振る舞うかについては、非常に価値観が問われる部分ではあります。もちろん自分自身の価値観を捻じ曲げてまで参加する接待に何か意味があるかと聞かれると、「意味はない」という答えになるかもしれません。

しかしながら、自分自身の「価値観」とは関係なく、「女性」である自分自身に寄せられた「期待」が生まれることは認識しておきましょう。それを拒絶するのも受け入れるのも自分自身の「価値観」です。しかし「期待」はあなたの価値観とは関係のない部分で生まれてしまう可能性もあります。

そして、あなたの価値観ではOKであってもそれが自社のスタンダードとなったり、「前任の〇〇さんは」というような禍根を残す可能性についてもしっかりと考えた上で、自分の立ち位置を考えなければなりません。常に会社の代表として接待の場に出向いている意識は必要です。

また、断りたいけど断れないという場面もあるかもしれません。そういった際はしっかりと会社に報告をした上で、毅然とした対応をとってもらうのか、上司や先輩に同席してもらうなどの対応を取るようにしましょう。特に会社によりますが社会全体で従業員個人個人を守るルールはとても充実し始めています。一人で判断することなく、会社や上司と連携した上で進める必要があります。

接待の在り方と自身の立ち位置を意識するだけで、結果は変わります。お伝えした内容を、次の商談や日々の行動に落とし込んでいきましょう。

あわせて読みたい

筆者:店長

営業と、競馬と、しゃべる植物。あっAIも。つい、いろいろ作ってしまう人です。

→ 店長の正体(詳しいプロフィール)

店長

Xアカウント:@nishi_sales_ai 新卒で大手IT企業に入社し、飛び込み営業から深耕営業、大手企業担当まで第一線で経験を積む(表彰歴多数)。その後、事業企画・営業企画部門で経営に近い立場から営業組織と数字に向き合い、10年勤続を経て独立。営業組織の改善に特化したコンサルタント企業を立ち上げる。 コンサルタントして数々の現場に入りつつ、自ら営業特化の転職エージェントも運営。近年はAIを活用した営業組織の業務改善・生産性向上プロジェクトに携わる。現場の最前線と経営の両方を見てきた視点から、営業3年目前後がぶつかる壁を越えるための実践知を発信する。

この著者の記事一覧

\ 最新情報をチェック /

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 ※ が付いている欄は必須項目です