ビジョンマネジメントと個人の動機の接続|翻訳・意味づけ・浸透の実務
営業組織全体のモチベーションを上げるのに必要なのは、組織のビジョンマネジメントと個人のモチベーションマネジメントです。中長期的な効果を生むビジョンマネジメントのポイントと、即効性の高い個人のモチベーションマネジメントについて解説しています。特に個人のモチベーションマネジメントは、営業マン個人とのへの対応になります。また局所的かつ一時的に人心掌握に長けた人物を組織長に据えるなどの飛び道具的な手段も存在についても解説しています。
営業組織におけるモチベーションアップを目指すマネジメント
営業マンのモチベーションマネジメントの根幹となりうる評価やそもそもモチベーション管理コストの低くても済む人材を採用する以外の手法として、もっと現場感が高く、なおかつ即効性の高い施策として、全体ビジョンや個人にフォーカスを当てたモチベーションマネジメントも存在します。
営業組織のビジョンマネジメント
組織がどのようなことを達成することを目的に組成された組織であるかということをビジョンとして掲げて、営業マン全員の方向性を意義付けることには大きな意味があります。特に思考として「何のために」「誰のために」というポイントは20代を中心とした若手営業マンの動機付けには大きな役割を持っているでしょうし、何よりもモチベーションマネジメントの根幹の部分でもあります。
近年、ビジョンマネジメントがある種の組織の動機付けの手段のような使われ方をし、目的が手段化してしまっているような側面は否めませんが、それほど営業組織だけでなく、企業全体事業全体の動機付け要因の手段として、極めて有効な施策であるということの表れでもあります。
ありがちなケースとして時間とお金をかけてビジョンを作り出したが、そのステップや施策との関連性を紐付けて日常業務に落とし込むことができずに、形骸化してしまうケースです。これらのケースの多くは「手段として捉えてしまい、本当の意味づけを見出すことができなかった」ことに他なりません。
どんな困難があっても達成すべきことがブレない組織においてはビジョンマネジメントはあくまでも目的そのものであり、ビジョンが異なる人物は成果を出していても排除を辞さないという覚悟を持って挑むものでもあり、そうしたケースでは結束力の高くビジョンの浸透した組織を作り出す前提が成立していると言えるでしょう。
営業マン個人のモチベーションマネジメント
全体施策として、営業マン全体の底上げをすることができればよいのですが、必ずしも施策に対して唄い、踊れる人ばかりとは限りません。人間ですので、時にはプライベートなことを要因として、モチベーションを下げてしまうことさえあるのです。
こうした場合は個別に手を打つ以外に方法はありません。一人一人の特徴を理解し、モチベーションリソースや個人のキャリアなどにきちんと向き合い、組織と営業マンである従業員が心地よく対等に付き合える関係性の構築が必要になります。
しかし個人のモチベーションが落ちているような状況でも、だいたいのケースは会話量や接点量を一時的にたくさん増やすことで、離職防止などに役立つケースの方が多いと言ってよいでしょう。大切なのは、気づき声をかけることです。管理職で、気付きながら優先順位を落として声をかけずにやりすごす人や、そもそもサインに気付けない人は残念ながら一定数存在します。あるまじきことですが面倒という印象で放置するケースも散見されます。ほとんどが「会話をする」「営業マン自身に吐露させる」だけで解決するケースが多いにも関わらずです。
こうした個別ケースは近くの人間以外に気付けないかというとそうでもありません。多くは出勤時間・退勤時間に現れます。今まで始業30分前に出勤していた人が、ギリギリや遅刻が続いたケースは要注意です。自身が直属の上長でなくともそういう傾向が読み取れた場合は組織のラインを越えてでも積極的に声をかけるようにしましょう。
人心掌握
モチベーション管理をする上で、一番難易度が高いが一番有効な手段は、人心掌握に長けた人物を組織長に据えることです。そしてどういう人物が対象であっても、それなりに人心掌握するタイプの人はクライアントの人心掌握にも長けているため、営業マンとしての実績がなくとも機能するケースは多いにあります。
なかなかそうしたタイプが出現しないことが、組織としての継続性をもった施策とすることは難しい点ではありますが、一時的に、局所的に営業マンのモチベーション底上げにおいては極めて有効な施策であり成果に結び付く施策であると言えるでしょう。またこれらを人工的に作り出すことは極めて困難です。
コーチングなどのマネジメントスタイルをどれだけ学ぼうとも、どれだけ研修を積み重ねて人心掌握を試みようとも、人柄や人格で人を惹きつけるタイプの人心掌握の幅感で対応することは困難ですし、極めて再現性が低いものになってしまうため、一時的かつ局所的な出現次第の施策ぐらいの位置付けにおかねばなりません。
もっとモチベーション高く働きたい!営業組織を強化したい!という方へ
組織でもっとモチベーション高く働きたい!という方にはモチベーションアップの方法についての記事もありますので是非参考にしてみてください。
- 営業マンにオススメのモチベーションアップの方法
- 営業組織における「モチベーションが上がる仕組み」は継続的成果を創出する!
- 営業組織のモチベーションアップのための「組織のビジョンマネジメント」と「個人のモチベーションマネジメント」
もっと組織としてのパフォーマンスを上げたい!と思っている方は営業組織における具体的な取り組みを検討してみてはいかがでしょうか。
抽象的なビジョンを「今週の行動」まで翻訳する
掲げたビジョンが動かないのは、多くの場合、言葉が抽象度の高いまま宙に浮いているからです。ビジョンは組織のいちばん上の階層で語られる一方、営業マンが実際に手を動かすのは目の前の一商談です。この二つの間には、放っておくと埋まらない距離があります。ここを埋める作業を、私たちは翻訳と呼んでいます。
翻訳は三段のはしごで考えると扱いやすくなります。いちばん上に「組織のビジョン」、中間に「今期の重点テーマ」、いちばん下に「個人の週次の行動」を置きます。たとえば地域企業の成長を支えるというビジョンがあるなら、今期は既存顧客の課題を提案の前に掴むというテーマに落とし、そこから「訪問前に相手の業界の動きをひとつ仕入れておく」という週単位の行動まで下ろします。ここまで下ろせて、はじめてビジョンは営業マンの月曜日を変えます。
翻訳できているかを確かめる問いはひとつです。「このビジョンが本当なら、優秀な営業マンは来週から何を変えるか」を具体的な動作で言えるかどうかです。動作の言葉が出てこないビジョンは、まだ翻訳されていない飾りの状態にあります。マネージャがこのはしごを一段ずつ言葉にして手渡すことが、抽象を行動へ接続する最初の実務になります。
個人の目標とビジョンが重なる一点を、対話で探す
翻訳したビジョンを全員に同じ形で配っても、響き方は一人ひとり違います。ここで必要になるのが、個人の動機とビジョンが重なる接点を、面談の場で一緒に探す作業です。上から意味を割り当てるのではなく、本人がどこで交わるかを見つけにいく発想が要ります。
進め方は、まず本人が何を得たいのかを先に聞くことから始めます。将来独立したいのか、専門性で頼られたいのか、生活の安定を最優先にしたいのか、動機の源は人によって置き場所が違います。そのうえで、組織のビジョンがその動機のどこに触れているかを一緒に確かめます。独立を見据える人には、顧客の成長を支える経験がそのまま提案力の蓄積になるという接点が見えますし、安定を重んじる人には、顧客と長く続く関係が安定した数字につながるという接点が見えます。同じビジョンでも、触れる場所は人によって変わるのです。
避けたいのは、「みんなのためだから」という誰にでも当てはまる意味を差し出すことです。全員に当てはまる意味は、結局誰の胸にも刺さらず、するりと滑り落ちます。接点は一人ずつ違う場所にあるという前提に立って、その一点を探し当てることが、この対話の勘所になります。
営業マネージャの役割について知見を広げたい方はこちら。プレイヤーとの違いが腑に落ちます。
→ 営業マネージャの役割とは? 仕事内容と求められるスキル|チームで数字を作る営業マネージャの実務 ── 案件管理・育成の仕組み化・対上マネジメント
モチベーションの保ち方について知見を広げたい方はこちら。続ける力の仕組みがわかります。
→ 営業マネージャは知っておきたい「営業メンバーのモチベーションマネジメント」について|内発と外発を切り分ける──営業マネージャのためのモチベーション実践設計
掲げたビジョンが「壁の貼り紙」で終わる構造
時間と費用をかけて作ったビジョンが浸透しないとき、原因の多くは中身の出来ではなく、日々の判断の中で一度も参照されないことにあります。年度初めの決起の場で読み上げられ、そのあとは壁に貼られたまま、商談の意思決定にも評価の言葉にも登場しません。この状態が続くと、ビジョンは掲示物として静かに空文化していきます。
生きた基準として働かせるには、判断の現場でビジョンを引くしくみを埋め込むことです。商談レビューでは「この案件はビジョンの向きに沿っているか」を一言確認し、評価のフィードバックでは成果をビジョンの言葉で意味づけて返します。ときには、この仕事はうちの向きと違うから受けない、という断りの理由にビジョンを使うことも効きます。使う場面を持たない言葉は、掲げた瞬間から風化が始まるからです。
頻度も見直す価値があります。年に一度振り返るだけの言葉は、日々の判断には届きません。月に一度、直近の商談や動きをビジョンに照らして短く確認する程度の周期で回すと、ビジョンは飾りから、実際に使われる判断基準へと立ち位置を変えていきます。浸透とは唱和の回数ではなく、意思決定にどれだけ登場したかで測るものだと捉え直すと、打ち手が具体的に見えてきます。
そもそも、ビジョンと動機は「一致させる」ものではない
ここまで、ビジョンを行動へ翻訳し、個人の動機との接点を探し、判断の現場で使い続ける方法を見てきました。最後に、その土台にある前提そのものを問い直しておきたいと思います。組織のビジョンと個人の動機は、本来ぴったり一致するものではありません。組織が語るのは事業として達成したいことであり、個人が抱えているのは自分の人生で得たいことです。この二つは、そもそも出発点が違います。
にもかかわらず、マネジメントの現場では「会社のビジョンを自分ごとにしろ」という言い方がよく使われます。しかし、自分ごとにしろと迫れば迫るほど、本人の中ではかえって他人事に押しやられていきます。一致していない二つを無理に重ねようとする力は、本人にとっては押し付けとして働くからです。ビジョンへの熱量が高い管理職ほど、この押し付けに気づきにくいという難しさもあります。
だとすれば、マネジメントの仕事は両者を一致させることではありません。ぴったり重ねる一本の糸を探すのではなく、二つが部分的に交わる接点を、一人ひとりと一緒に見つけることです。全員が同じ動機で同じビジョンへ向かう必要はありません。ある人は専門性を磨く場として、ある人は生活を支える手段として、それぞれ違う入り口からビジョンに触れていて構わないのです。接点が一人ずつ違ってよいと認めた瞬間に、マネージャの肩の力は抜けます。
そして、接点で生まれる意味は、上司が用意して与えるものではありません。用意された意味づけは借り物であり、借り物はきれいな言葉であるほど早く剥がれます。意味は、本人が自分の言葉で見出したときにだけ、その人の中に根を張ります。マネージャにできるのは、正解の意味を差し出すことではなく、本人が自分の言葉を見つけるまで問いを重ね、待つことです。
さらに厄介なのは、その接点が固定されていないことです。結婚や昇進、家庭の事情といったライフステージの変化で、動機の置き場所は静かにずれていきます。去年見つけた接点が、今年もそのまま効くとは限りません。だからこそ、接点探しは一度きりの儀式ではなく、折に触れて座り直す定点の対話であるべきです。組織のビジョンと個人の動機を縫い合わせるのは、一致という一本の糸ではなく、一人ひとり違う場所に打たれた無数の接点です。その接点を、本人の言葉で何度も見つけ直し続けることだけが、壁の貼り紙を、現場で本当に使われる判断基準へと変えていきます。

