営業組織の情報共有の仕組み|失注・生の声を資産に変える設計
営業組織内で情報共有する内容や仕組みとして、定期的にオフィシャルにする情報共有と不定期で情報入手したタイミングでアンオフィシャルにしていく情報共有と大きく二つがあります。前者は主に、受注トピックスやクライアント情報について、後者は競合情報やマーケット情報などが適していると言えるでしょう。
営業組織内で情報共有するべき内容と仕組み
営業組織内で、どのような情報を流通させ共有し、形式知化していくかということは多くの営業組織において、非常に重要なテーマであると感じる組織は多いようです。情報が、ヒト・モノ・カネに続く第4の経営資源であると言われる昨今、どのような情報をどのような場を用いて営業組織内で共有することが望ましいのでしょうか?
ポイントは二つで「どの情報」を「どのように」共有するかということです。共有すべき情報とは大きく下記のような二つに大別することが可能です。
- 「定期的」にかつ、「オフィシャル」に共有すべき情報
- 「不定期」にかつ、「アンオフィシャル」に共有すべき情報
定期的にオフィシャルに共有すべき情報
受注トピックス
企業によっても異なりますし、クライアントに対するバリューをどのようなポイントに置くかによって大きく異なります。ただし、どの企業においても「いかにして受注をするか」ということが大きなテーマであることに違いはない以上、受注に関する情報共有は定期的にオフィシャルの場で共有すべき内容と言えるでしょう。
具体的には受注トピックスがそれに該当します。受注トピックスとは、どのような課題の企業に対してどのようなアプローチをすることで受注できたかというような内容です。
目標に対する進捗のようなものを共有する場は多くの営業組織の場で設定されているはずですが、それとは性格が異なります。あくまでも受注事例であったり、成功パターンに関する共有をする場を指します。
これらはナレッジ共有というような呼ばれ方をすることがあります。どのような課題に対してどのような提案が刺さるのか、またその際にどのような事前の課題の握りができていたことが成功の秘訣であったかなどについて、話すことが多いです。これらは一つの成功体験を皆に共有することで、同じような課題認識を持っている企業に対する新しいアプローチを考えるためのヒントになったりすることがあります。
クライアント情報
またクライアント情報も共有すべきことの一つです。特に営業対象が特定の業界に限られているようなケースはマストで情報共有すべきと言えます。またクライアントに対して受注の後の成果について目標を共有しているようなケースにおいても非常に有効に機能します。
例えば広告業界においてクライアントに対する成果を握っている場合や、賃貸マンションで空室をいかに低下させるかということをクライアントと握っているような場合がそれに該当します。つまり、受注ではなくクライアントとの間の成功体験について情報共有するような場です。
受注トピックスが短期的な受注成果を追い求めることを目的とした情報共有の場であることに対して、クライアント情報の共有はクライアント満足度を中長期的に向上させていくことを目的とした情報共有となります。
もしかすると短期的な受注には繋がらないかもしれませんし、クライアント満足度が向上することが課題が解決されニーズがなくなり、営業機会を失うこともしばしばあります。しかしどのような業界のどのような営業であっても、顧客満足度は中期的な業績向上に寄与することは明確です。
従って短期的にも中長期的にも業績向上に直接的に寄与するようなものについては定期的にオフィシャルな場で、営業組織内で情報共有することが望ましいと言えるでしょう。
不定期でアンオフィシャルに共有すべき情報
不定期にアンフィシャルに共有すべき情報については、情報共有そのものを目的としつつ営業組織内のコミュニケーションを活性化させることも副産物として期待すべきことであります。
例えばどうしても個人プレーに走りがちな営業組織においては、営業同士の交流が没交渉になってしまう反面でオフィシャルなものを前面に出すとどうしても形式的になりがちになってしまい、なかなか身のある情報共有にならないような場合に、コミュニケーションツールなどを用いて、アンオフィシャルな情報共有をすることも一つの手段となります。
アンオフィシャルに情報共有するべき内容は下記のような内容となります。
競合情報
競合との戦い方が営業施策を講じる上で最重要におくべきであるというケースにおいては、オフィシャルな情報共有が望ましいと言えますが、競合はいるにはいるが、そこまで自社の営業施策に対して影響を及ぼすほどではない、という場合は、アンオフィシャルに情報共有していくことが望ましいと言えます。
商品情報・マーケット情報
競合情報に紐づく部分が多々ありますが、マーケットにおいてどのようなプレーヤー(競合)がどのようなプロダクト(商品)をどのような価格で卸し始めているかということは、いつどのタイミングで発生するかわからないため、定期的に開催することは難しいかもしれませんが、情報があれば組織として吸い上げたいことと言えます。
アンオフィシャルに不定期に共有する情報の吸い上げ方
発生ベースでミーティングなどを開催したり、朝会や朝礼などの場を用いることができればそれで代替することも可能ですが、コミュニケーションツールを活用することも一つの手段です。
例えばチャットワークやslackなどのコミュニケーションツールはテーマごとに、スレッドを立てることができるため、不定期であっても発生ベースで一時的に活性化させることも可能ですし、何よりも伝えたい人に間違いなく伝えることができる、その他の情報と明確に区切ってテーマを絞って議論・共有ができるというメリットがあります。
勝ちパターンより先に「負けパターン」を共有資産にする
受注事例やクライアントとの成功体験が共有の柱になるのは間違いありません。ただ、営業3年目のあなたが翌週の商談で本当に効かせられるのは、実は勝ち筋よりも「負け筋」のほうです。成功は前提条件が揃って初めて再現できますが、失敗は「同じ落とし穴を踏まない」という形で、誰でもすぐに使えます。
まず共有したいのは失注理由です。ここで注意したいのは、報告される失注理由の多くが「価格が高かった」「タイミングが合わなかった」に丸められてしまうことです。この粒度では資産になりません。掘るべきは、失注が決まる前の一手──「どの段階で、誰の、どんな一言で流れが変わったか」です。決裁者が出てくる前に情報システム部門から難色が出たのか、稟議の直前に競合が再見積もりを入れてきたのか。ここまで解像度を上げて初めて、次に同じ業種を担当する人が「この局面が来たら先に手を打つ」と動けます。
同じく資産価値が高いのが、顧客の生の声と意思決定の背景です。提案の可否そのものより、「なぜその判断になったのか」が効きます。予算がいつ組まれ、どの部署が起案し、最終的に誰が首を縦に振るのか──この意思決定の地図は、商材が同じなら業種を越えて流用できます。競合の動きも、勝敗の結果だけでなく「どんな切り口で入ってきたか」まで残します。値引きで来たのか、導入実績で来たのか、サポート体制で来たのか。切り口が分かれば、次は先回りして潰せます。共有して効く情報とは、結論ではなく「判断が動いた瞬間の状況」だと考えてください。
日報・朝会・CRMを「報告」から「更新」へ設計し直す
情報を流す器はたいてい既にあります。日報があり、朝会があり、CRMがあります。にもかかわらず中身が薄いのは、これらが「上への報告」として設計され、「横で使う更新」として設計されていないからです。器を増やす前に、既にある器の目的を組み替えたいところです。
日報は、自由記述欄を残すほど形骸化します。「本日◯件訪問、手応えあり」で埋まるのは、書き手が何を書けば読み手の役に立つかを知らないからです。効くのは項目の固定です。たとえば「今日詰まった一手」「顧客が実際に口にした言葉」「次に誰かが同じ顧客に会うなら伝えたいこと」の三点に絞ります。感想ではなく、他人が使える断片だけを求めます。書く量はむしろ減り、読む価値は上がります。
朝会は「進捗の確認」に使うと、ただの点呼で終わります。進捗は数字を見れば分かります。朝会の数分は、進捗ではなく「今週、誰の知恵を借りたいか」を一人一つ持ち寄る場にします。困りごとを先に出させると、周りが持っている失注や生の声が引き出されます。共有は、蓄積を待つより「今この案件で必要」という引力で引き出したほうが速いのです。
CRMは、入力を義務にすると死にます。営業3年目なら、埋めても誰も読まないフィールドに時間を溶かした経験があるはずです。生かすコツは、入力した情報が本人に返ってくる導線を作ることです。たとえば同じ業種の失注メモが自分の商談準備画面に並ぶ、過去に同じ決裁者と当たった人が分かる、といった具合です。入れた人が最初に得をする設計になって初めて、CRMは倉庫からナビに変わります。
受注管理の仕組み化について知見を広げたい方はこちら。属人化を減らし、案件を取りこぼさなくなります。
→ クラウドの受注管理システムでできること|機能表の先を読む──クラウドの利点、定着する運用、つないで効く一元化
共有が回らないとき、意識やツールを疑う前に見る場所
共有が続かないと、たいてい「意識が低い」「ツールが使いにくい」に原因が求められます。ですが意識改革の号令もツールの入れ替えも、多くの現場で一時的な盛り上がりの後に元へ戻ります。まず疑うべきは、もっと手前の運用にあります。
第一に、書く形式が決まっているかです。前述の通り、自由記述は書き手を迷わせ、迷いは省略を生みます。第二に、書く時間が業務のどこに埋め込まれているかです。共有を「余力があればやるもの」に置いた瞬間、余力のある日は来ません。訪問直後の五分、朝会前の三分といった具体的な時刻に紐づけて初めて習慣になります。第三に、そして最も見落とされるのが、書いた情報に反応が返ってくるかです。投げた失注メモに誰も触れず、生の声に「ありがとう、助かった」の一言もつかないなら、書き手は次から書きません。人は反応のないところに労力を割き続けられません。
意識やツールを入れ替える前に、この「形式・時間・反応」の三点を点検したいところです。多くの場合、回らない原因はやる気の欠如ではなく、回るように設計されていないという、ただそれだけのことです。
そもそも、なぜ持っている人ほど共有したがらないのか
ここまで仕組みを詰めてきましたが、最後に一段引いて、共有という行為そのものの力学を見ておきたいと思います。情報共有はしばしば「善意」や「当事者意識」の問題として語られます。共有しないのは意識が足りないからだ、と。ですが、この見立てが対策を空回りさせています。
冷静に構造を見れば、共有とは「自分の武器を他人に渡す」行為です。苦労して掘り当てた決裁者の攻略法、失注から学んだ回避策、顧客が本音を漏らした瞬間の文脈──これらは、その営業が数字を出すための個人資産です。組織全体で見れば共有したほうが得なのは自明ですが、共有した本人の視点では、自分だけが持っていたときの優位が薄まります。とりわけ成績が相対評価で並べられ、ノウハウの出し手が評価されない組織では、真面目に共有する人ほど順位で損をしかねません。共有が回らないのは、意識が低いからではなく、共有した人が損をするインセンティブ構造がそのまま放置されているからです。
だとすれば、打つべき手は精神論ではありません。構造をひっくり返すことです。第一に、出し手を可視化します。この失注メモが誰の投稿で、それが何件の商談を助けたかが見える状態にします。ナレッジの提供が数字の隣に並んで初めて、共有は「損」から「評価される仕事」に変わります。第二に、共有と成績を切り離して奪い合いをなくします。個人の受注数だけで序列がつく限り、武器の出し惜しみは合理的な行動であり続けます。第三に、受け取った側が「助かった」を必ず返す文化を運用に埋め込みます。反応は、出し手にとって唯一その場で受け取れる見返りだからです。
情報を「第4の経営資源」と呼ぶなら、資源には所有と分配の力学が必ず伴います。共有が回る組織とは、意識の高い個人が集まった組織ではありません。共有した人が確かに得をするよう、力学そのものを組み替えた組織です。器を整え、書き方を決め、時間を埋め込む──その全ての土台に、「出した人が報われる」という一点を据えられるかどうかで、情報共有は掛け声のまま朽ちるか、営業の勝率を押し上げる仕組みとして根を張るかが分かれます。

