クライアントが前払いをしたいと言い出した時に気をつけておくこと

クライアントから前払いをしたいと言われるケースの多くは決算前の税金対策です。脱税に該当するケースも多くあります。まず営業と絶対にしてはいけないのは納品日の改ざんです。基本的に対応しなくても問題ありませんが、先の受注が確定することが望ましいのであれば、受けてしまっても問題ありません。

クライアントが前払いをしたいと言い出すケース

支払いをなるべく遅くしたいというクライアントはたくさんいますが、突然、何か月分かの支払いを先にしたいというクライアントの対応をしたことがある営業マンもいると思います。なぜクライアントが前払いをしたいと言い出すのか知っておきましょう。知らずに対応したことが、クライアントの脱税を補助したということになりかねないケースもあります

クライアントが支払いを前払いしたいと言った時に考えられるのは以下のようなケースです。

  • 忘れないように支払い処理を先にしてしまいたい
  • サービス要求がセット
  • 勘違いしたふりをした脱税
  • 悪質な故意の脱税

忘れないように支払い処理を先にしてしまいたい

例えば小さな企業で毎月の支払い先がそれほど多くなく、経費の支払い処理を何か月分かまとめてやってしまいたいというニーズは時々あります。キャッシュはあるので、支払い処理の工数を少なくするために何か月分かを先に支払いたいということです。あまりケースとして多いとは言えません。

それに企業規模が小さければ小さいほど、キャッシュアウトはなるべく遅くしたい傾向にあるので、なおさら多いケースとは言えないでしょう。企業規模が大きければ普通に毎月支払いが発生しますので、支払い処理にそれほど工数がかかるとも思いません。しかしそういった企業や担当者・経営者が時々いるのも事実です。

特に何か不都合があるわけではありませんし、将来の受注が確定するので自社に確認をして受ける体制が整うのであれば対応することもやぶさかではありません。しかし受注が確定しない状態でイレギュラーで前受金を受け取るという前例を作るのがイヤな企業もあります。何にせよ自社の上司や経理などのバックオフィスに確認を取る必要があります

サービス要求がセット

先に支払うので、今後のサービス対応を求められるケースです。クライアントがその場で言ってくればその場で判断もできますが、後出しでサービス要求されるケースもあります。もし先方から支払いの前倒しを求められた場合は、念のため後々のサービス対応などはできないが、それでも構わないかといった言質を取るのも一つの手段かもしれません。

しかしそれほど多いケースとは言えませんし、企業規模が大きくなると個別ケースで支払いサイトを早めるということにそれほど価値があるとも言えませんので、数として多いかというと、かなり稀有なケースと言えるでしょう。

勘違いしたふりをした脱税

一番多いのが、勘違いしたふりをした脱税です。請求書には納品日というものがあります。この納品日が決算期の前か後かで当期の費用かどうかという判断をします。同じ請求書に何か月分かの納品月が記載されている場合、決算前に該当するものは当期の費用、決算後に該当するものは来期の費用とするルールです。

しかし、一つの請求書で複数月の請求があった場合、支払いは一回ですることもあります。つまり翌期の費用であるが、支払いは今期の費用と一緒にしてしまうのです。普通は税理士などがチェックなどをしますので、翌期の費用を今期の費用として経費処理していたとしても見抜かれます。もちろん通常のコンプライアンス意識を持った税理士であれば、発見した時点でそのような決算を認めることはありません。

しかしながら、税理士も人間ですし見落とす可能性があります。税理士が見落としたものをそのまま税務署に提出すると、税務署でもまた見落とされる可能性もあります。あくまでも「勘違いした」という体裁であれば、追徴課税のようなペナルティもそれほど高いものになるわけではありません。

つまり最後まで見抜かれずにいけばラッキーというぐらいの気持ちで請求書を一つにまとめてくることを要望してくるケースです。

このような場合に、納品日が正しい状態になっていたとすると、請求書を発行した側がなんら咎められるわけではありません。もちろん脱税の補助をしたというような捉えられ方をすることもまずないと言っていいでしょう。

しかしながら、クライアントの口から「勘違いしたふりをして今期の費用とするつもり」という言葉を聞いたのだとしたら対応すべきではありません。請求書がそのようになっていなかったとしても、知っていて対応したという事実が後々重くのしかかる可能性があります。

悪質な故意の脱税

絶対に対応してはならないのが、納品日の改ざん要求です。これは悪質な故意の脱税にあたるため、税務調査などで悪質と判断されるケースもありますし、そのような請求書を発行した側の責任を問われる可能性もあります。

納品行為に対して納品書という証跡を発行しないような取引形態も多くあるため、一つ一つの支払いがどの期間の費用とすべきかという判断に一番根拠を求められるのが請求書であるというケースもあります。

つまり期間損益の観点で請求書に書かれた納品日の日付が全てであるという場合において、その日付をクライアントの都合のよいように対応してしまったという事実は、後々重くのしかかる可能性が高いため、絶対に対応してはなりません。仮にクライアントとの関係性が悪化したり、競合はその対応をしているというようなことを言われようとも対応すべきではありません。

毅然とした態度ではっきりと余地がないということを伝えるべきです。そもそもそのような対応をする企業の方が圧倒的に少ないため、クライアントも「通るはずがない。通ればラッキー」という前提で言ってきているのです。

角を立てずに、しかし毅然と ― 越えられない依頼の断り方

一線を越える頼みを断るのは、営業にとって気の重い場面です。断れば関係が険しくなるのでは、と身構えてしまう。ここで効くのが、断りを「自分個人の判断」にしないことです。「私はやりたいのですが、会社の決まりで、納品日を実態と違える処理はできないんです」。こう伝えれば、拒んでいるのはあなた個人ではなく、会社の仕組みだという形になり、相手も引き下がりやすくなります。角が立つのは、「できません」と突き放すからで、「どうしても仕組み上できない」と、動かせない事情として示せば、相手の面子も保たれます。加えて、代わりにできることを一つ添えるとなおよい。「その処理は難しいのですが、来期分として正しく前受金でお預かりする形なら対応できます」。断ると同時に、応じられる道を示す。ただ拒むのではなく、越えられないところははっきりさせつつ、そのすぐ手前で相手の役に立つ。この組み立てが、関係を保ったまま毅然と断るためのコツです。

前払いを「正しく」受ける手順 ― 納品日と売上の時期は動かさない

前払いそのものは、悪いことでも危ないことでもありません。問題になるのは、前払いを口実に、売上を計上する時期や納品の日付を、実態と違えてしまうことです。だから、正しく受けるための原則は一つ。お金を先に受け取っても、納品日と、売上を立てる時期は、あくまで実態のままにする、ということです。数か月分をまとめて先に支払いたいと言われたら、受け取ったお金は、その時点ではまだ売上ではなく、前受金として預かる扱いにする。そして、実際にサービスを提供した月ごとに、正しく売上へと振り替えていく。この処理を自社の経理と足並みをそろえてやれば、前払いは何ら後ろ暗いものになりません。逆に、「先にもらったのだから、まとめて今期の売上にしてしまおう」と日付をいじった瞬間に、健全な前払いが、脱税の片棒担ぎに変わります。受け取り方そのものではなく、受け取った後の処理を実態どおりに保てるか。そこが、正しく受けるか否かの分かれ目です。

やり取りを記録に残す ― 「言った・言わない」から自分を守る

この種のやり取りで自分を守るのは、最後は記録です。前払いや請求のまとめは、口頭だけで進めると、後になって「言った・言わない」の危うい水掛け論になりかねません。とくに、相手が意図を口にした場合は要注意です。もし「今期の費用にしたいから」といった、税をごまかす狙いがにじむ発言があったなら、それを察したうえで応じたという事実が、後々あなたに重くのしかかります。だからこそ、やり取りは文字に残す。前払いを受ける条件、納品日は動かさないという前提、追加のサービスは含まないという線引き。こうした取り決めを、口約束で終わらせず、メールなどで一度確認しておく。「先日ご相談の件、この条件で承ります」と書面化しておけば、自分がどういう前提で応じたのかが、はっきり形に残ります。やましいことがないのなら、記録はあなたを縛るものではなく、いざというとき、身の潔白を証してくれるものになります。

一人で抱えない ― 迷いはそのままエスカレーションのサイン

前払いや請求のまとめを持ちかけられたとき、いちばんやってはいけないのは、営業が一人でその場で結論を出すことです。この手の話には、税務や会計のルールが絡み、自分の一存では判断しきれない要素が必ず含まれます。良かれと思ってその場で「わかりました」と応じたことが、後から会社全体の問題に発展することもある。だから、少しでも通常と違う頼みだと感じたら、即座に持ち帰り、上司や経理に確認する。これは、判断力がないということではなく、むしろ、自分の権限の範囲をわきまえている、ということです。「一度社に確認します」と答えるのは、営業として何ら恥ずかしいことではありません。とっさに答えて墓穴を掘るより、ずっと堅実な対応です。判断に迷ったら、その迷い自体が、上に上げるべきサインだと考える。抱え込まずに、しかるべき人へ委ねる。この線引きが、思わぬ落とし穴を避けるための、いちばん確かな備えになります。

そもそも営業が問われているのは、「飲める頼み」と「飲んではいけない頼み」を見分けられるかである

ここまで前払いへの対処を見てきましたが、最後に、そもそもこうした場面で営業が本当に試されているのは何なのかを、考えてみたいと思います。前払いや請求のまとめが厄介なのは、断れば相手との関係が気まずくなりそうで、つい応じたくなるからです。この「相手の頼みと、守るべき決まりの間で板挟みになる」状況は、実は前払いに限らず、営業が日々ぶつかり続けるものの、ひとつの典型です。

ここで大切なのは、クライアントからの頼みには、性質のまったく違う二種類がある、と気づくことです。一つは、値引きや、少し無理な納期のように、こちらが多少の痛みを引き受ければ、関係のために飲むこともできる頼み。もう一つは、納品日を実態と違える依頼のように、どれだけ関係が惜しくても、決して飲んではならない頼みです。この二つは、同じ「相手の要望」という顔をしてやってきますが、越えている境目がまるで違う。前者は、自分が損を引き受けるだけの話ですが、後者は、越えた瞬間に、自分が加担者になってしまう話なのです。成熟した営業とは、押しの強さでも、要望を何でも通す器用さでもなく、この二つを、その場で冷静に見分けられる人のことです。

そして、見分けたうえで後者を断ることは、目先の関係を犠牲にしているように見えて、実はその逆です。考えてみてください。こちらの都合で平気に決まりを曲げる営業を、クライアントは本当に頼りにするでしょうか。今日、自分のために規律を曲げてくれる相手は、裏を返せば、明日は別の誰かのために、こちらとの約束も平気で曲げうる相手です。逆に、関係が惜しくても越えられないものは越えないと示す営業は、その場では煙たがられても、「この人は、都合で原則を売らない」という一点で、はるかに深いところで当てにされます。断ることが、遠回りに見えて、いちばん確かな関係の築き方なのです。

だからこそ、越えてはならない一線を持っていることは、営業にとって足かせではなく、むしろ拠って立つ足場になります。守るべき線がはっきりしているほど、迷いなく踏みとどまれ、相手との関係を壊さずに、それでも越えないと示せる。その足場を、目先の一件のために自分から崩してしまえば、次に同じ頼みが来たとき、踏みとどまる場所を失います。何でも「はい」と飲む営業の返事は、軽くて当てになりません。断るべきものを断れる営業の「はい」だけが、重みを持つのです。守るべき一線を持つことは、相手を遠ざけることではなく、自分の言葉に値打ちを宿し、長く当てにされ続けるための、ただ一つの条件なのだと思います。

終わりに

絶対に守らなければならないのが、「納品日の改ざん要求は絶対に受けない」ということです。実態が伴わない請求書の発行は脱税の補助をしていることになりかねません。少なくとも自分自身が判断できることではありませんので、上司などに相談して適切に判断することが望ましいでしょう。

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筆者:店長

営業と、競馬と、しゃべる植物。あっAIも。つい、いろいろ作ってしまう人です。

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