営業の情報収集力の鍛え方|4層に仕分けて一次情報を仮説に変える
営業マンとして必要な能力の一つに情報収集力があります。情報収集力の一つにクライアント情報の収集力がありますが、これは主にヒアリングや営業そのもののを通じて情報収集します。もう一つが世の中のトレンドやマーケット環境、競合などに関する情報収集です。企業や業界によって大きく異なりますが、営業としてどのような情報収集に努めることが望ましいのでしょうか。
営業として鍛えていきたい情報収集力
情報収集の対象としては大きく二つあります。
- 経済やマーケットなどのマクロの情報
- クライアントに関するミクロの情報
どちらの方が大切というわけではなく、どちらも大切です。ただし、必要な情報収集の仕方が大きく異なりますし、収集した情報の使われ方も全く異なります。クライアントに関するミクロ情報の収集に関して、もっとも必要なのはクライアントに対するヒアリング力です。
「できる営業マンが実践している「クライアントのことを知る」営業とは?」の記事において、営業マンに必要なヒアリング力についてまとめていますので参考にしていたければと思います。またヒアリングを終えた後の情報の活用の仕方については「コンサルティング営業が提供するソリューションについて」の記事において詳細を取り扱っています。
一方でマクロの情報収集の仕方としてどのようなものがあり、どのような手段で収集することが望ましいのでしょうか?
マクロ情報の収集対象と情報収集手段について
マクロ情報の収集として、ぜひ積極的に集めたいのが下記のような情報です。
- マーケットや競合の情報
- クライアントの競合の情報
- 経済などの情報
マーケットとは自社が置かれているマーケットそのものに関する情報です。例えば、競合がどのような施策をクライアントに対して講じようとしているか、マーケットで最新のトレンドを踏まえた商品はどのようなもので、どれぐらいの価格帯かといったような情報です。クライアントの競合の情報とは、パートナーとしてクライアントを支える立場としては知っておかねばならない情報と言えます。
また株価や為替をはじめとした経済の情報ももちろんビジネスマンとして知っておく必要がありますし、最新のITトレンドや同世代の消費者層の間で流行の兆しを見せているものなども、雑談や消費者の立場としての意見を言う際に大きな役に立つこともあります。
これらを収集する手段としては主に3点あります。
クライアントから知る
クライアントに率直に自社の競合の動向を聞いてみるというのも一つの手段です。複数のパートナーや業者から提案を受けているクライアントは、知らず知らずのうちに、そのマーケット環境の大枠を掴む立場にいると言えます。また商品情報や価格の情報などは、営業を受ける立場にあたるため、その動向の最新状況をキャッチアップできる人と言えます。
もちろん企業秘密という意味合いだったり、業務を通じて知り得た情報であるため、知れる範囲については限定的になってしまいますが、人がよいクライアントだったり、情報管理について甘いクライアント、もしくは味方になってくれるようなクライアントの場合は、営業を受ける立場の人しか知り得ない情報を収集することができます。
一方で、自社の情報が同じクライアントを通じて、他社に流れている可能性があることも十分に認識しておきましょう。
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営業共有で知る
クライアントなどを通じて知り得た情報を、自社の営業内で共有する仕組みのことです。例えば、クライアントの競合の情報ということは、自社がお付き合いしている他のクライアントという可能性は大いにあります。また上場している会社がクライアントの競合の場合は、有価証券報告書を通じて、直近の財務データだけでなく、今後の経営の目指す方向性などについても詳細に記述されています。
これらを一人一人が時間をとって、全てを網羅的に情報収集するには莫大な労力と時間を要します。オススメの方法として営業として情報共有する場をしっかりと確保し、それぞれの分野の担当を決め、これらをシェアするやり方です。クライアントの情報を共有するだけで、クライアントの置かれているマーケットの状況の大枠を掴むことができたりもします。
媒体やメディアを通じて知る
どのような業界においても「専門誌」というものが存在しますし、「専門メディア」というようなwebサイトも多く存在します。例えば流通業界であれば「日経MJ」をはじめとして「日本流通産業新聞」のような新聞まで発行されています。これらは流通業界に限らず、多くの業界においてweb・紙媒体など形を問わず多く存在します。
これらは多くの情報を浅く広く仕入れるにあたりもっとも適した情報収集手段といえるでしょう。
「何を・どの層で」集めるかを4つの層で仕分ける
情報収集がうまくいかない営業の多くは、集める手段の前に「集める対象の輪郭」がぼやけています。3年目に入ったら、対象を4つの層に分けて仕分けるところから始めたいところです。層ごとに、集めるべき中身も、鮮度の求め方も違うからです。
一つ目は顧客そのものの層です。ここで見るのは会社の外形ではなく、意思決定の内側です。誰が予算を握り、どんな評価軸で年度の投資判断をしているか。今期の重点テーマは何で、社内でどの部署が力を持っているか。決算期や予算編成の時期を押さえておくと、提案を出す「窓」がいつ開くのかが読めます。
二つ目は競合の層です。ここは自社の競合と、顧客の競合の二方向で見ます。自社の競合については、価格帯や標準的な提案内容だけでなく、どの案件から手を引いたか、どこで負けているかという「撤退や敗北の跡」が効きます。勝ちパターンより負けパターンのほうが、自社の差し込みどころを教えてくれます。
三つ目は業界の層です。規制や制度の変更、原価や取引慣行の変化など、顧客が「逆らえない外圧」を拾います。これは提案の緊急性を裏づける材料になります。
四つ目はキーマンの個人層です。役職ではなく人として、その担当が何を成果と考え、社内で何を守ろうとしているか。ここだけは公開情報にほとんど載りません。
この4層を、数字で追える定量情報と、温度や空気でしか掴めない定性情報の両輪で埋めていきます。層と情報の質を意識するだけで、「とりあえず調べる」から「狙って集める」へ変わります。
現場と人からしか出ない一次情報の取り方
検索やIR資料、業界メディアから取れる情報は、裏を返せば競合も同じように取れます。差がつくのは、その場と、その人からしか出てこない一次情報のほうです。
一次情報を引き出す第一の道具は、質問の設計です。「何かお困りごとはありますか」では、当たり障りのない答えしか返ってきません。「直近で、社内で一番もめたテーマは何でしたか」「前の取り組みは、どこで止まりましたか」と、過去の具体的な出来事に的を絞ると、加工されていない事実が出てきます。意見や要望ではなく、実際に起きたことを聞くのがコツです。
第二は観察です。訪問した先の受付の混み具合、会議室に貼られた標語、担当者の机まわりの資料。雑談で「最近お忙しいですか」と一言添えたときの返し方にも、部署の余力や優先順位が滲みます。言葉にされた要望より、こうした断片のほうが実態に近いことは多いのです。
第三は、情報が一方通行にならないよう設計することです。こちらが業界の動きや他社の一般的な取り組みを先に差し出すと、相手も自社の内情を返しやすくなります。ただし、ある顧客から聞いた内情を別の商談で軽々しく使えば、自分の内側も同じように流れていると見なされます。取った一次情報をどこまで持ち出すかの線引きは、情報の中身と同じくらい重要です。
集めた情報を仮説・提案に変換する手順
情報は、集めた時点では一枚の付箋の束にすぎません。成果に変わるのは、それを仮説へ、さらに提案へと組み替えたときです。ここを飛ばして情報を並べるだけの営業は、詳しいのに刺さらない、という壁にぶつかります。
まず、集めた材料を「事実」と「解釈」に分けて置きます。「先方は昨年の取り組みを途中でやめた」は事実、「だから内製に懐疑的なのでは」は解釈です。この二つを混ぜたまま考えると、思い込みを事実と錯覚しやすくなります。事実だけを先に並べ直すと、地図が澄んできます。
次に、その事実群から「この顧客は今どこで詰まっているのか」という一本の仮説を立てます。複数の事実が一つの詰まりを指しているとき、その仮説は精度が高いといえます。逆に、事実がばらばらの方向を指すなら、まだ聞けていない層がある合図です。
そして仮説を、相手の言葉で語れる提案に翻訳します。「御社の課題は◯◯です」と言い切るのではなく、「昨年ここで止まったのは、この一点が抜けていたからではないか」と、拾った事実に紐づけて差し出します。自分が集めた情報が提案の根拠として顔を出すと、相手は「この人はうちを見ている」と受け取ります。情報量ではなく、事実から仮説への筋道が、提案の説得力を決めます。
収集を日常に埋め込む個人の仕組み化
情報収集が続かないのは、意志が弱いからではなく、仕組みになっていないからです。気合いで補おうとする限り、忙しい週にまず削られるのが情報収集になります。だから、集める行為を業務の動線の中に埋め込んでしまいます。
起点になるのは、記録の型を一つ決めることです。商談メモを毎回同じ枠で書きます。たとえば「今日出てきた事実」「未確認の空白」「次に確かめること」の三欄を固定しておくと、書くたびに次の一次情報の宿題が自動的に残ります。埋まっていない空白が、次回の質問リストになります。
次に、集めるきっかけを予定に結びつけます。訪問前の移動時間に業界の動きを一つだけ確認する、月初に担当顧客の決算や適時開示に目を通す、といった具合に、既にある行動へ相乗りさせると、新しく時間を作らずに定点観測が回り出します。
情報を寝かせない工夫も要ります。取った直後に一言の解釈を添えて残しておくと、半年後にその事実が別の商談で効いてきます。断片のままでは記憶から消えますが、解釈が付いていれば呼び戻せます。収集を、単発のリサーチではなく、記録と解釈が連鎖していく流れとして回します。これが、集める力を成果に変える土台になります。
情報は集めるほど動けなくなる — 先に立つのは「問い」である
情報収集力という言葉は、いつのまにか「たくさん知っていること」とほぼ同義で語られがちです。しかし現場で起きているのは逆の現象であることが多いのです。会社概要を隅々まで読み、業界レポートを何本も抱え、担当者のSNSまで遡って商談に臨んだのに、一言も刺さらないまま終わってしまいます。一方で、情報はさほど持っていないのに、たった一つの問いを携えて座った営業が、短い会話で相手の核心に触れます。この差は、情報の量ではなく、問いの有無から生まれています。
集めるという行為には、それ自体が目的にすり替わりやすい性質があります。調べているあいだは仕事をしている実感があり、判断を先送りできます。だからこそ人は、動く前にもう少しと情報を積み上げます。ところが情報は積むほど、どれが効くのかが見えなくなり、かえって足が止まります。知っていることが増えるほど、選べなくなるのです。
順序を入れ替えたいところです。集めてから何を問うかを決めるのではなく、何を知りたいかを決めてから集めます。「この会社は今、どこで迷っているのか」「昨年の取り組みは、なぜ途中で止まったのか」——先にこの問いが立っていれば、必要な情報とそうでない情報が自然に分かれます。問いは、無限に広がる情報の海に、探す範囲の輪郭を引きます。輪郭のない収集はどこまでも続きますが、問いを起点にした収集は、答えに近づいた瞬間に止まれます。
問いの解像度が上がれば、少ない情報でも動けます。逆に問いが粗ければ、どれだけ情報を積んでも判断はぶれます。鍛えるべきは、蓄える容量ではなく、良い問いを立てる感度のほうです。何を知らないかを言葉にできる営業は、次に取りに行く一次情報を自分で指定できます。与えられた情報を処理する側から、取りに行く問いを設計する側への移動です。
情報収集力を伸ばしたいと感じたときこそ、手を止めて逆から問いたいものです。今の自分は、何を知りたくてこれを調べているのか。その問いに一言で答えられないなら、足りないのは情報ではなく、問いの輪郭のほうです。集める力の先にあるのは、より多く知る営業ではなく、より鋭く問える営業です。

