エレベーターピッチとは|プレゼンとの違いと結果を出すコツ
ピッチとは、起業家が投資を得るために投資家に事業内容などをアピールする時などに行われる、短いプレゼンテーションです。プレゼンテーションは相手を説得し行動や意思決定をさせることを目的としますが、ピッチの目的は短い時間で相手の気持ちを掴み興味を引くことで、次に詳しい話を聞きたいと思わせること、プレゼンテーションの場につなげることです。ここでは、ピッチとプレゼンテーションの違い、ピッチをせいこうさせるコツなどを紹介していきます。
ビジネスにおけるピッチとは?
ピッチとは、主に経営者や上司、クライアントなどの時間が制限された目上の方に対するコミュニケーション術の一つです。特に事前情報を持っていない相手に対し、いきなり詳細を話すのではなく興味喚起を目的とした短いプレゼンテーションです。英語圏ではセールスピッチ(sales pitch)と呼ばれるもので、製品やサービスを買ってほしいときの話し方、または話を意味します。投資家に対して、起業家が事業内容や成長可能性を伝え、投資を得たい時のアピール手法としても使われます。英語で言うピッチ(pitch)とは野球のピッチングのように相手に話を投げかけることを指します。
ピッチとプレゼンテーションの違い
ビジネスシーンにおいてピッチとプレゼンテーションは厳密には使い分けられていません。「プレゼンテーションを短くしたもの=ピッチ」と解釈する人が多いですが、どこまでがピッチで、どこからがプレゼンテーションということは決まっていないとされます。
エレベーターピッチとは?
ビジネスシーンで使われるピッチの発祥地はシリコンバレーと言われています。人口比3%が起業を経験すると言われる同地域では少数の投資家やVCに対し、多数の起業家たちが日夜自分たちの話を聞いてほしいと足を運んでいます。1人にかけられる時間は当然短くなるため、エレベーターに乗っている間だけ話を聴くという場面が出てきました。投資家がエレベーターに乗っている30秒程度で自社の事業内容を伝え、投資を訴えかけること、これがエレベーターピッチです。
もともとピッチには話を投げかけるという意味もありましたが、自社の魅力を短くまとめて強く売り込む、という意味での使われ方が近年一般的になっています。必ずしもエレベーターという場所にこだわることなく、移動中や会議の合間といった短い時間を利用して話すことを指しています。
エレベーターピッチとプレゼンの違いは使われる場面
プレゼンテーションとは計画、企画案、見積もりなどを会議で説明することを意味します。目的は相手を説得し具体的な行動や意思決定をさせることです。プレゼンテーションの相手は、既に話の概要をつかんでいて、内容についての多少の事前知識を持っていることが多く、話を聞く前提で時間を確保している場合がほとんどでしょう。
一方エレベーターピッチは先に示した通り、セールストークとも言い換えられますが、起業家による事業内容や成長可能性のアピールをさすことが多いです。その目的は、相手の気持ちを直感的に掴み、詳しい話を聞きたいと思ってもらうことです。エレベーターピッチの場合、相手が初めから自分の話を聞きたいと思っていることは少なく、また、例えば投資家などは専門領域も異なるため話の内容に関する事前知識もほとんどない場合が多いのです。ピッチの目的は、次のステップとしてプレゼンテーションの場で詳細を話す機会をもらうために、相手の興味を最大限に引くことなのです。
ある程度の大企業になっても社内でエレベータピッチのコンテストを実施することがありますが、これは社員1人ひとりに起業家のような意識を持って仕事をしてほしいという企業側の願いとしてそうした言葉を選んでいる場合が多いです。
エレベーターピッチで結果を出すために
ただ顧客にセールストークを投げかけても受注にはつながりません。そこであなたのエレベーターピッチをより効果的にするコツを6つご紹介いたします。社内コンペなどにも応用できるテクニックです。
1. 目的を明確にする
前述したように、エレベーターピッチで話をする相手があなたの話を聞きたいと思っていることは稀です。そして、あなたの話に対して、相手の興味を最大限に引かなければなりません。そのために、相手に伝えるべきこと、理解してもらうべきことは何か?言い換えれば、相手がもっとも興味を持ってくれそうなのは、何か?ということをまず突き詰めて考えるのです。自分が伝えたいことを話すだけでは、相手の興味は次第に失われてしまうのです。
2. 印象を良くする
『モノを売り込む前に、まずは自分を売り込む。』という言葉を聞いたことはあるのではないでしょうか。自分をうまく演出し、信頼できそうな人だと顧客に思ってもらうことが重要です。清潔感のある服装や自信に満ちた表情などを通じて、あなたの話がもっと顧客の印象に残るような工夫をしましょう。
3. 顧客情報を手に入れる
マーケティング全般に言えることですが、効果的な宣伝にはあらかじめターゲットの情報を手に入れておくことが非常に重要です。ターゲットがどれくらいの予算を使えて、どんなサービスを既に受けているのか、これが頭に入っている状態でなければ効果は得られないでしょう。また、良いエレベーターピッチは一方通行ではありません。顧客の話に耳を傾け、質問を投げかけて自社の製品・サービスが顧客の問題をどう解決するのかを提案します。
4. 買わない理由には決まったものがあると心得ておく
顧客が自社のサービスを買わない理由にはある程度決まったものがあります。予算、時期、ニーズ、信用です。その1つ1つのボトルネックを解消する説明ができるように準備しておきましょう。また中小企業で競合が大企業になる場合、顧客の話を聞く中で見つけた細かい具体的問題へのソリューションを提供できるようにしていく必要もあるでしょう。
5. 売り込む先はキーパーソン
BtoBの営業の場合に特に言えることですが、ピッチを経て良い印象を持ってもらえたとしても、その人が自社の製品・サービスを会社に導入するかどうかを決める立場でなければ受注にはつながりません。アポイントメントを取る段階で、担当者と繋いでもらえるようにしておきましょう。
6. 次に繋げることを意識した構成
先に述べているようにエレベーターピッチの目的は、もっと深い話をするための切符を手に入れることです。宿題をもらったり、別の担当者の連絡先を教えてもらったりすることを目指すべきです。
エレベーターピッチの原稿の作り方
1. 初めから話したいことをまとめすぎない
初めから30秒で伝えるべき内容をまとめようとすると、抜け漏れや論理破綻を起こしやすいのです。いきなりまとめるのでなく、十分に思考し全ての論点を洗い出し、誰よりも深く考えた状態にする。その上で、エレベーターピッチにおいて相手の気持ちを掴むために必要な項目・内容に絞り込むのです。このようにステップを踏まずいきなりまとめにかかると、結局相手の質問にも答えられず、次のステップを掴むことができない、ということにつながります。
2. スクリプトは作り込まない
エレベーターピッチにしてもプレゼンテーションにしても最悪なのはトークスクリプトの棒読みです。いくら素晴らしい原稿を作ったとしても聞き手には伝わりにくいのです。相手の反応によって強調すべきところは変更する、場合によっては内容をカットする必要もあります。また、原稿を作り込みすぎた時にありがちなのが、本番になって内容が飛んでしまい話が伝わらなくなることです。
3. 専門用語を使わない
エレベーターピッチの目的は相手の興味を引くことです。相手と専門業界が異なることもあり、その人に分からない言葉を使うことは途中で興味を失わせてしまうことにつながります。また限られた時間で聞き手に内容を直感的に伝えることが求められます。その分野の知識がない人でも分かりやすい言葉で話すことが必要です。
4. ゆっくり堂々と話す
何度も言いますが、目的は相手に興味を持ってもらい自分の話をもう一度聞きたいと思ってもらうことです。どのような人の話なら詳しく聞いてみたいと思うでしょうか?伝える意思を持って相手に聞きやすいトーン・速さで、内容に自身を持って魅力的に話す人ではないでしょうか。相手にどう伝わるか?にとって大事なのは決して話す内容だけではありません。話す人の印象も大きく左右します。これらを心得て話すように心がけましょう。
5. 具体性を持って話す
投資を受ける場合や、上司に決裁を得る場面などにおいて重要なことの一つに、具体性を持たせることでメリットをリアルに感じてもらうという点があります。「1億円の投資が3年で3億のリターンが見込める」「15%の削減効果が見込まれる」「既に欧米では2人に1人が使用している」「事前テストでは95%のカスタマーが購入意志を示した」等の数値的な表現を持って、具体性を高めることが必要です。
ビジネス用語と向き合い、実践を重ねることが、成長のカギになります。学んだことを、明日からの一歩につなげていきましょう。
冒頭の「掴み」を設計する ― 最初の一言で振り向かせる
限られた時間で相手の興味を引くうえで、最も重みを持つのが、いちばん最初の一言です。人は、話し始めの数秒で、この話を聞き続けるかどうかを、半ば無意識に決めています。ここでつまずくと、あとにどれだけ良い内容が控えていても、届きません。だからこそ、冒頭の「掴み」は、行き当たりばったりにせず、意図して設計する必要があります。効くのは、自分の紹介から入らないことです。「私どもは〜を提供しております」と始めるより、相手の頭の中にある関心や困りごとから切り込む。「〜で困っていませんか」と問いかける、意外な事実を一つ投げかける、あるいは、ぱっと情景が浮かぶ短い具体例から入る。いずれも、狙いは同じです。相手に「お、なんだろう」と、こちらへ意識を向けさせること。最初の一言で振り向かせられれば、続きに耳を貸してもらえます。全体を練り込む前に、まず、出だしのひと言だけは、何通りも作ってみて、いちばん引きの強いものを選んでおくことです。
「人に話したくなる」一言を残す ― 相手を伝え手に変える
ピッチの成否は、その場で相手が頷いたかどうかだけでは決まりません。もう一つ、見落とされがちな勝負どころがあります。相手が、あなたの話を、別の誰かに話したくなるかどうかです。とくに、その場で決める権限を持たない相手にピッチしたとき、話が進むかどうかは、その人が上司や同僚に、あなたのことをどう伝えてくれるかにかかっています。ここで効くのが、覚えやすく、そのまま人に話せる、短い一言を残しておくことです。あれもこれもと詰め込むと、相手の記憶には何も残らず、人に伝えるときには「なんか良さそうな話」に薄まってしまう。そうではなく、「一言で言うと、〜な仕組みです」と、相手が丸ごと持ち帰れる形にまとめておく。良いピッチは、聞いた相手が、あなたの代わりに、社内であなたの話をしてくれる状態を作ります。その場の相手を説得するだけでなく、その人を、次の相手への伝え手に変えられるか。そこまで見据えて、残す一言を磨いておきたいものです。
日常に潜むピッチ ― 電話・メール・自己紹介にも効く
ピッチというと、投資家の前や、かしこまった場だけの特別な技術に思えます。けれど、目を凝らせば、私たちの毎日は、短く興味を引く勝負に満ちています。電話をかけた最初の十秒、相手が話を聞く気になるかどうかは、そこで決まります。メールも同じで、件名と、本文の最初の二、三行を読んだ時点で、開いて読み進めるか、閉じるかが分かれます。交流会での自己紹介も、社内で新しい企画を切り出すときも、要は、短い時間で相手の関心を掴む、小さなピッチです。こう捉えると、練習の場は、特別な舞台を待たなくても、日常のいたるところにあります。電話の第一声を工夫してみる、メールの書き出しを一行変えてみる。こうした小さな場で、「どう言えば相手が前のめりになるか」を試し続けることが、いざという本番のピッチ力を、確実に育てていきます。特別な技術ではなく、毎日使える構えとして持っておくことです。
断られても「関係を残す」 ― 一度のピッチで終わらせない
どれだけ工夫しても、その一度のピッチで、いつも次につながるとは限りません。相手にその気がなかったり、間が悪かったりで、空振りに終わることもあります。ここで大切なのは、断られたことを、終わりにしないことです。うまくいかなかったとき、多くの人は、気まずさから、その相手との縁を、そこで切ってしまいがちです。しかし、今日響かなかった話が、半年後、相手の状況が変われば、急に必要になることもある。だからこそ、たとえその場で実らなくても、悪い印象だけは残さず、「またタイミングが合えば」と、扉を開けたまま別れることが肝心です。短い会話でも、相手の記憶にほどよく残っていれば、いつか相手のほうから思い出してくれることもあります。一度のピッチを、一発勝負の勝ち負けとしてではなく、長い付き合いの入り口として捉える。すぐに実らなかった一回を、次への種として残しておけるかどうかが、息の長い成果を分けます。
そもそもピッチとは、「相手はあなたの話を聞く義務などない」という前提から出発する話し方である
ここまでピッチの技術を見てきましたが、最後に、そもそもピッチという話し方が、私たちに何を教えているのかを考えてみたいと思います。ピッチは、エレベーターの中の三十秒、といった特殊な場面の技術に見えます。けれど、その根っこには、あらゆるコミュニケーションに通じる、一つの厳しい前提が横たわっています。
私たちは、人に話すとき、無意識のうちに、相手は自分の話を最後まで聞いてくれるものだ、と思い込んでいます。会議で時間をもらえば、その間は聞いてもらえて当然。そう構えている。ところが、エレベーターピッチは、その思い込みを、根こそぎ壊してしまいます。持ち時間は三十秒、相手はあなたに何の義理もなく、つまらなければ、そのまま立ち去っていく。ここでは、相手の注意は、最初から与えられているものではありません。一秒ごとに、こちらが引き止め続けなければ、すっと消えてしまうものなのです。ピッチが突きつけているのは、この、「相手の注意は、もともとゼロだ」という、身も蓋もない事実です。
そして、これはピッチだけの話ではありません。考えてみれば、どんな場面でも、相手の注意は、本当は借り物です。長い会議でも、何気ない雑談でも、相手が聞いてくれているのは、義務だからではなく、聞くに値すると感じてくれているあいだだけ。ただ、ふだんは相手が礼儀で聞いてくれているぶん、その事実が見えにくくなっているだけなのです。ピッチの三十秒は、この、いつもは覆い隠されている真実を、逃げ場なく、むき出しにしてくれます。だから、ピッチがうまい人が本当に身につけているのは、気の利いた話術ではなく、「相手の時間と注意を、いま借りている」という自覚のほうなのだと思います。
その自覚がある人は、どんな長さの話でも、相手を退屈させません。要点を先に置き、無駄をそぎ、相手の関心の動きに合わせて話を調整する。それは、相手の注意が有限で、いつでも引き上げられうると、体で分かっているからです。逆に、その自覚のない人は、聞いてもらえて当然という顔で、だらだらと話し、いつのまにか相手の心を取り逃がしています。エレベーターの三十秒で鍛えられるのは、実のところ、特殊な早口の技ではありません。すべての場面で効く、相手の注意への敬意です。ピッチとは、短く話す技術である以上に、相手の時間を軽んじないという、話し手の姿勢そのものなのだと思います。

