オープンイノベーションとは|必要性とP&G・トヨタの事例

経済産業省が旗振りをして、日本の潮流となりつつある「オープンイノベーション」。メリット/デメリットをP&G、トヨタの実例と共に紹介します。

オープンイノベーションとは

オープンイノベーションとは新技術や新製品の開発を組織の枠組みを超えて行うことを言います。産学官、異業種、大企業とベンチャー等による共同開発と言った組み合わせが考えられています。対義語はクローズドイノベーション(自前主義)で、文字通り組織内部で研究開発を進めていくものです。

オープンイノベーションのはじまり

現カリフォルニア大学バークレー校ハース・スクール・オブ・ビジネス客員教授で、ハーバードビジネススクールの助教授だったヘンリーチェスブロウによって提唱され、彼の著書、「OPEN INNOVATION―ハーバード流イノベーション戦略のすべて」からよく知られるようになりました。著書の中でチェスブロウ教授は1960年代の事例にも言及しており、考え方自体は昔から存在していたことが伺えます。

イノベーションの必要性

イノベーションは革新、または新機軸と訳され、生産の拡大のための、労働・土地などの生産要素の組み合わせを変化させたり、新たな生産要素を導入したりする企業家の行為を言います。技術革新と訳されることも多いですが、最近ではその技術の経済社会的な影響を考慮して、約さず「イノベーション」と呼ばれることの方が多くなりました。

イノベーションの理論自体は20世紀の経済学者ヨーゼフ・シュンペーターが提唱したとされています。シュンペーターは「経済発展の理論」の中で経済発展・経済循環を起こすのはイノベーションであるとしました。彼の言うイノベーションとは、新製品や発明に限らず、新生産方式の導入、新原料・新資源の形成、新市場の開発などのことも言います。蒸気機関車ができ、鉄道というシステムが生まれること自体もイノベーションというわけです。iPhoneはその好例で、スマートフォンがあるということを前提にしたビジネスが2010年以降多く生まれてきましたね。また、カーボンナノチューブのように宇宙エレベーターをはじめとする様々な研究開発の土台となるものもあります。イノベーションは企業を儲けさせ、消費者に新しい価値提供をするだけではなく、消費需要、投資需要を刺激して、経済自体を発展させるものというわけです。

「経済発展の理論」の中でシュンペーターはイノベーションは非連続的に発生する、という点を強調しました。起こそうと思っても起こせず、それでいて金融、政治など様々な要素が新しいものづくりを後押ししなければ起りえないものなのです。経済産業省では日本においてイノベーションを起こし、国際的な競争力を維持していこうという取組を進めています。その1つがオープンイノベーションの推進です。官公庁、メーカー、大学、研究機関が手を組むことを奨励することで、ケミストリーが起きることを期待した政策といえます。

なぜ今オープンイノベーションなのかー必要性と課題

昨今、消費者のニーズは多様化し、高度化してきました。加えてプロダクトライフサイクルの短期化も進んでいます。旧来の自前主義でそうした市場の要求に対応しきれなくなってきているからと言うのが、この考え方が採用される理由でしょう。特に加速的で予測のつかない進化を続けるITの分野では、他企業にキャッチアップしたころにはもう間に合わないとされています。そうした競争が今日日はグローバルに動き続けているのです。そんなIT分野の中でもIoTの成長スピードはすさまじく、インターネットに接続されたデバイスの数はもうすでに世界人口を優に超えており、この先数十年で人間の数の何倍にも増えると予測されています。技術を持つか持たないかは死活問題というわけです。後述するトヨタのような大企業でさえも危機感を持って、新しい研究開発の方法を模索する中でオープンイノベーションを採用しました。

オープンイノベーションのメリット/デメリット

オープン型の研究開発においては、他の組織と協力関係を結ぶことを通じて自社にその技術や、作業工程のノウハウが蓄積されます。ここがアウトソーシングとは違う点ですね。そして当然、自社で最初から開発するよりも早く製品化・サービスローンチができます。しかしながら、自社に全くなかったものを取り入れるため、コストは大きくなります。長期的にみれば、良い商品サービスをスピーディに市場に出しつつ効率化を進めることで利益を回収できるでしょう。

先述したオープンイノベーションの提唱者ヘンリーチェスブロウは著書の中で、自社の未利用のアイデアは積極的に他社に使わせ、他社の未利用のアイデアを自社で活用していくことが、オープンイノベーションであるとしました。いわば組織同士の戦略的互恵関係です。しかし、そこにはコア領域、つまり自社の強みが外に漏れてしまう危険や、会社が無個性化してしまうリスクが伴います。特許を用いるなどして守っていく工夫をしつつ、いかにして自社のコアコンピテンスを維持していくのかを考慮しなくてはなりません。

まとめると次の通りです。

メリット

  • 他社の優れたノウハウを学べる
  • スピードをもった研究開発
  • 長期的な投資効率(費用対効果)の高まり

デメリット

  • 内製化する場合にくらべ初期コストがかかる
  • 自社のノウハウ、アイデアの流出
  • 自社の独自性の弱まり

オープンイノベーションの事例

1.海外の事例ーP&G

背景

業績が悪化していたP&Gでは2000年頃から「コネクト・アンド・デベロップ(Connect + Develop:C+D)」(以下C+Dとします。)という、オープンイノベーションの取り組みを始めました。

同社では年間約20億ドルを投じ、9000人の人員を割いて自社でのみ研究開発を行ってきました。しかし2000年頃からこの費用のかさむやり方では革新的な製品をスピーディに生み出してヒットさせ続けることが難しくなってしまいました。株価は大幅に下落し、元のクローズドイノベーションを続けていてはコストに成長が見合わなくなったわけです。そこで、自前主義を脱却し、「50%のイノベーションは社外から」というスローガンのもと、C+Dを開発しました。

C+Dとは

C(=コネクト:世界中の優れたアイデアを結びつける)、D(=多様化する消費者のニーズを満たし、暮らしをより良いものにする製品やサービスを提供)を結びつけ、P&Gとして革新的なサービス・製品を生み出していく取り組みです。技術的ニーズを一般に公開して世界中から有望な技術やアイデアを募集する規格が有名ですが、他にも技術提携契約、ジョイントベンチャー、技術導出、ライセンス、買収、企業支援等の手法を用いて行っています。P&Gはこれを進めることで、今まで3年かかっていた製品開発が2年でできるようになったとしています。

結果

プロジェクトの効率性、市場インパクトが増大し、2008年には売上高が2000年比200%に達しました。一連のオープンイノベーションの好例がファブリーズです。2011年頃には紙おむつの「パンパース」、シャンプーの「パンテーン」等250のブランドの中でトップクラスの10億ドルブランドに成長しました。

また、C+Dの中では積極的な社内風土の改革が行われ、外部との提携を強化するだけでなく、異動や人事交流を通じ、社内の外部連携を促進する取り組みが進められた。加えて社員のアントレプレナーシップを育てる教育や、オープンイノベーション専任組織の社内設置を行ってオープンイノベーションをP&Gの企業文化にまで昇華させました。

2. 国内の事例ートヨタ

背景

トヨタをはじめ、多くの国内メーカーは高い技術力や独自の効率的生産方式を売りにしてきました。80年代の日米貿易摩擦の映像を思い出す読者もいるでしょう。しかし近年、技術力とデザインで高い人気を誇るドイツ系はもちろん、中国系、韓国系企業も力を蓄えてきています。加えてIT技術の発展スピードは目覚ましく、現状いくら世界トップクラスの人材を囲っても自社の技術だけではリーディングカンパニーであることが困難になっています。

これまでトヨタは垂直統合型と呼ばれるビジネスモデルで発展してきました。「系列」の形で小規模の会社と契約を結び、インセンティブを与えて技術と生産性の追求を進める方法です。しかしながら、自社にほとんどノウハウが蓄積されていない分野については、こうしたクローズド型の研究開発手法に無理があります。

連携と協業

知能化技術、ロボティクス、水素エネルギー利用の技術を中心において産学問わず共同研究・開発を進めています。まずAIの分野では、スタンフォード大、MITなどの大学や東大発のベンチャーPreferred Networksなどと協働しています。次にEVなどの環境配慮型自動車の研究ではマツダをはじめとする複数の競合メーカーと協業関係を結んでいます。2015年以降はトヨタが持つ燃料電池車技術と世界一と謳われるマツダのディーゼルエンジン技術を相互供与しており、2017年には2社の資本提携と共に次世代型EVの共同開発を発表しました。また、2016年12月からオープンイノベーションプログラム、「TOYOTA NEXT」において一般に広くトヨタの技術ニーズに応えるアイデアを募集しています。

今回の内容を実践し続けることが、成長のカギになります。学んだことを、明日からの一歩につなげていきましょう。

大企業だけの話ではない ― 中小・現場でのオープンイノベーション

外部と組んで価値を生むと聞くと、巨大企業や国の政策の話に思えて、自分の仕事とは縁遠く感じるかもしれません。けれど、外の力を借りて成果を生むという発想は、規模の大小を問わず使えるものです。むしろ、自前で抱えられる資源が限られる中小企業やスタートアップにとってこそ、外と組む意味は大きい。自社に足りない技術を持つ会社と手を組む、専門のフリーランスや副業人材に一部を任せる、同じ悩みを持つ同業と情報を持ち寄る。こうした身近な連携も、立派な外部連携の一形態です。すべてを社内でまかなおうとすれば、人も時間も足りず、いつまでも動き出せません。逆に、足りない部分を外から補うと割り切れば、小さな組織でも、単独では手の届かなかった仕事に挑めます。大がかりな研究開発だけが連携ではない。自分たちに何が足りず、それを誰と組めば埋められるか。この問いは、どんな規模の現場にも当てはまります。

営業の仕事にどうつながるか ― 「自前」にこだわらない提案

この考え方は、日々の営業活動にも、そのまま持ち込めます。営業をしていると、自社の商品だけでは、相手の課題をすべて解ききれない場面に必ず出会います。ここで、「うちで扱えるのはここまでです」と引き下がるか、「足りない部分は、あの会社と組めば解決できます」と踏み込めるかで、提案の幅は大きく変わります。自社商材にこだわらず、他社の製品やサービスも組み合わせて、相手の課題に最適な形を設計する。これは、いわば一人ひとりの営業が行う、小さなオープンイノベーションです。自前の商品を売ることだけを考えていると、選択肢は自社の棚に並ぶものだけに縛られます。けれど、視野を外にも広げれば、相手にとっての最適解を、会社の枠を越えて組み立てられる。結果として、目先の一つの商品を売る人ではなく、課題そのものを解決してくれる人として頼られるようになります。自前にこだわらない姿勢が、提案の質を一段引き上げます。

外部と組むときの進め方 ― 開示範囲と役割の線引き

外と組む決断をしたら、次に問われるのは、その進め方です。ここを詰めずに勢いで始めると、後で必ずもめます。まず決めるべきは、お互いに何を、どこまで見せるかの線引きです。連携に必要な情報は開き、自社の核となる部分は伏せる。その境界を、始める前にはっきりさせておく。大事な情報をやり取りするなら、秘密を守る取り決めを文書で交わしておくことも欠かせません。次に、役割と責任の分担です。どちらがどこを担い、成果や費用をどう分けるのかを、曖昧なまま進めない。加えて見落としがちなのが、組織どうしの文化の違いです。仕事の速度も、判断の基準も、言葉づかいさえ違う相手と進めるには、こまめにすり合わせる手間を惜しまないことです。外と組むことの難しさの多くは、技術そのものよりも、この開示範囲・役割・文化の調整にあります。ここを丁寧に設計できるかどうかが、連携の成否を分けます。

何を守り、何を開くか ― 手放してはならない核の見極め

外の力を借りるほど、逆に問われてくるのが、「では、自分たちの強みは何か」という問いです。何もかもを外に頼れば、確かに早く形にはなりますが、それを続けるうちに、自社ならではの色が薄れていきます。誰と組んでも作れるものしか持たない会社は、やがて誰からも必要とされなくなる。だからこそ、外と組む前に、絶対に手放してはならない核がどこにあるかを、見極めておく必要があります。自社の競争力の源泉となる部分は、内に抱えて磨き続ける。一方で、そこに直接かかわらない周辺の部分は、思い切って外に開き、他者の力を借りる。この「守る核」と「開く周辺」の切り分けが、連携で自分を見失わないための羅針盤になります。開くことと、守ること。この二つは対立しているようで、実は組みになっています。何を守るかがはっきりしているからこそ、思い切って外に開けるのです。

そもそも「自前でやるか、外と組むか」という問いは、賢い人の大半が常に自分の外にいる、という事実から始まる

ここまで外部と組む実務を見てきましたが、最後に、そもそもなぜ「何もかも自前でやる」というやり方が、これほど行き詰まるようになったのかを考えてみたいと思います。市場のニーズが多様になり、技術の移り変わりが速くなったから、というのは確かに一因です。ただ、その奥には、もっと動かしがたい一つの事実が横たわっています。

それは、どれほど大きく、どれほど優秀な組織であっても、世の中の優れた頭脳の大半は、常にその組織の「外」にいる、という単純な事実です。考えてみれば当たり前のことです。一つの会社が抱えられる人材の数には限りがあり、世界中で日々生まれ続ける知恵の総量には、どうやっても及びません。自社の中でどれだけ人を集め、鍛えても、自分たちの外側で生まれる新しい発想のほうが、圧倒的に速く、大量に湧き出してくる。自前主義が限界に達するのは、景気や流行のせいではなく、この、知恵の生まれる速さの差という、構造そのもののせいなのです。

この事実を受け入れると、勝負どころが変わってきます。かつては、いかに優れたものを自分の内側で「作り出す」かが、力の源でした。けれど、役に立つ知恵の大半が外にあるのなら、本当に問われるのは、作り出す力ではなく、外に散らばっているものを見つけ、選び、「つなぎ合わせる」力のほうです。世界のどこかに、自分たちの課題を解く鍵を持っている誰かが、必ずいる。その相手を探し当て、うまく手を結び、自分たちの持ち味と組み合わせて、一つの価値へと編み上げる。これからの強さは、何をどれだけ所有しているかではなく、どれだけのものを結びつけられるかで測られるようになります。

そう捉え直すと、「開く」という言葉の意味が変わって見えてきます。外に開くことは、自分たちだけでは足りないと認める、後ろ向きで消極的な選択のように思えるかもしれません。けれど、それは正反対です。自分の中身だけで戦うのをやめ、世界中に散らばる力を丸ごと味方につけようとすること。これは、実のところ、考えうるかぎり最も欲張りな戦略なのです。自前という狭い箱を出た者だけが、その広大な資源に手を伸ばせる。開くとは、負けを認めることではなく、もっと大きな場所で勝ちにいくための、はじめの構えなのだと思います。

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筆者:店長

営業と、競馬と、しゃべる植物。あっAIも。つい、いろいろ作ってしまう人です。

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