SPIN話法の質問例|営業で示唆質問を自分で作る手順
SPIN話法の質問例を探してこのページに来た方の多くは、すでに何本かの例文集を読んでいるはずです。それでも次の商談の準備が終わらないのは、例文が足りないからではありません。読んだときは理解できるのに、自社の商材に置き換えようとすると手が止まる——この記事は、その止まる場所から書いています。すぐ使える質問例を先に示したうえで、例文を自分の商材から作る手順、聞きすぎずに繋ぐ方法、想定どおりの答えが返ってこなかったときの分岐まで扱います。
H2-1. SPIN話法の4つの質問と、例文をそのまま使うと詰まるところ
SPIN話法は、ニール・ラッカムが膨大な数の商談を実地に記録・分析し、成績上位の営業ほど示唆質問を多く使っていたことを突き止めた研究から生まれた質問の順序です。状況質問・問題質問・示唆質問・解決質問の四種類を、この順で重ねていきます。定義そのものはどの解説記事にも載っていますので、ここでは意味の説明よりも、それぞれの質問が顧客の頭の中で何を起こし、現場でどう崩れるのかを一覧にしておきます。崩れ方まで並べておくと、自分がどこで詰まっているのかが先に分かります。
| 質問の種類 | 目的 | 顧客の頭の中で起きること | よくある崩れ方 |
|---|---|---|---|
| 状況質問(S) | 事実を揃える | 何も動きません。答えるだけです | 調べれば分かることを聞いて、持ち時間を溶かしてしまいます |
| 問題質問(P) | 不満を言葉にさせる | 「困っている」と自分の口で言います | 「お困りですか」と聞いて「特にないです」で終わります |
| 示唆質問(I) | 問題の影響を広げる | 放置したときの損失を、自分で計算します | 作れないまま飛ばしてしまいます |
| 解決質問(N) | 解決後の価値を言わせる | 買う理由を自分の言葉で持ちます | 自社が解けない範囲まで言わせて、提案で回収できなくなります |
四分類は言えるのに商談で口から出ない、という状態には理由があります。ひとつは、読んだ例文が他社商材の完成品であって、自社商材への翻訳工程が書かれていないこと。もうひとつは、例文が一問一答のリストとして並んでいるため、そのとおり読み上げると会話にならないことです。前者は示唆質問の作り方の章で、後者は繋ぎ方の章で扱います。
H2-2. そのまま使える質問例|S・P・I・N の4種
まずは、そのまま口に出せる質問例を種類ごとに渡します。ただし例文を並べるだけの章にはしません。質問例で本当に難しいのは、使える例を見つけることではなく、用意した質問のうちどれを実際に聞き、どれを捨てるかを決めることだからです。持ち時間は限られていますので、聞く質問を増やすほど、後半の示唆質問と解決質問に使える時間が削られます。そこでこの章では、それぞれの種類に「捨てる基準」を一つずつ付けて示します。基準まで込みで持ち帰れば、例文はそのまま商談の設計図になります。
H3-2-1. 状況質問(S)と問題質問(P)の例 — 調べれば分かることは聞かない
状況質問は数を増やす必要がありません。体制と担当者、使っているツール、扱っている量や件数、頻度や期間、決め方と関わる人——この程度の軸があれば事実は揃います。「その業務は今どなたが担当されていますか」「どのくらいの頻度で発生しますか」「進める順番はどう決まっていますか」といった形です。ここに捨てる基準を二つ通します。第一に、企業サイト・採用ページ・公開資料・SNSで分かることは聞きません。聞いた時点で、調べてきていない人として扱われます。第二に、答えを聞いても自分の次の質問が変わらない質問は捨てます。この二つを通すと、用意した状況質問はおおむね半分になります。問題質問は「お困りですか」を捨てて、事実確認の形に言い換えるのが要点です。「その作業で手が止まることはありますか」「差し戻しが起きるのはどの工程ですか」のように、困りごとではなく手が止まる場所を聞きます。
H3-2-2. 示唆質問(I)と解決質問(N)の例 — 自社が解ける範囲の外は聞かない
示唆質問は、大きく三つの型に整理できます。時間の経過を聞く型は「この状態があと一年続くと、どうなりそうですか」。関係者への波及を聞く型は「それは他の部署の動きにはどう影響していますか」。機会の逸失を聞く型は「その時間が空いたら、本来は何に使う予定でしたか」。いずれも、答えるために相手が自分の状況を数えたり思い出したりする必要があります。解決質問の捨てる基準は明快で、自社が解ける範囲の外を聞かないことです。解けない範囲まで期待を言わせてしまうと、その期待は提案の場面で必ず自分に返ってきます。言い方は「その確認作業がその場で終わるとしたら、何が変わりますか」のように、価値を顧客の口から言わせる形にします。例文は種類ごとに数個あれば十分です。ここまでは他社の例ですので、次は自分の商材で作る話に進みます。
H2-3. 示唆質問が作れないのは、例が足りないからではない
示唆質問の例文なら、どの解説記事にも載っています。それでも自分の商談で口から出ないのは、渡されているのが「答え」であって「作り方」ではないからです。例文は、その商材の顧客が、その状況で被る損失を織り込んだ完成品です。商材が変われば中身は丸ごと変わり、手元に残るのは「放置するとどうなりますか」という汎用形だけになります。この章は、その汎用形しか出てこない状態から抜けるための章です。影響の広がり方を四つの方向に整理し、自社商材が止めている損失から逆算して、質問文に変換するところまで降ろします。
H3-3-1. 例文が自社商材に置き換わらない理由 — 例は「答え」であって「作り方」ではない
置き換わらない理由は三つに分解できます。第一に、示唆質問の例は完成品なので、商材が変われば損失の中身が全部入れ替わります。汎用形だけが残っても、それは相手に何も数えさせないため、何も引き出しません。第二に、多くの営業が示唆質問を「不安を煽る質問」だと理解しています。煽ることへの抵抗があるので、口に出す手前で止まり、結果として飛ばします。示唆質問が最も省略されやすいのは、作れないからというより、作りたくないと感じているからです。第三に、自社商材が何の損失を止めているのかを、営業自身が言葉にしていません。ここが空欄のままだと、どんなフレームを渡されても質問は出てきません。逆に言えば、この三つ目を埋めることが作り方の入口になります。
H3-3-2. 影響を4方向に翻訳する — 金額・時間・人・信用
問題の影響は、突き詰めると四つの方向にしか広がりません。金額(余分に払っている、または取り逃している)、時間(誰かの工数が消えている)、人(担当者の負荷、離職、属人化)、信用(顧客・取引先・社内からの評価が落ちる)です。自社商材が止めている損失を、この四方向に一つずつ書き出します。ここで大事なのは、書き出しの単位を金額ではなく、顧客がその場で数えられるものにすることです。金額は営業側の計算であり、顧客の手元にはありません。件数・回数・人数・時間なら、顧客は自分で数えられます。
| 影響の方向 | 自社商材が止めている損失(SaaS営業の記入例) | 顧客に数えさせる質問文 |
|---|---|---|
| 金額 | 重複した契約やツールに費用が分散しています | 同じ用途で契約されているサービスは、今いくつありますか |
| 時間 | 転記と突き合わせに毎回工数がかかっています | その突き合わせは、月に何回発生していますか |
| 人 | 手順を知っている担当者が限られ、属人化しています | その作業を最後まで進められる方は、今何名いらっしゃいますか |
| 信用 | 差し戻しや報告の遅れが社内評価に響いています | 差し戻しが起きたとき、どなたに説明が必要になりますか |
H3-3-3. 自社商材の示唆質問を作る手順と、誘導質問にしないための境界線
手順は五つです。第一に、自社商材で解決した事例を三件思い出します。第二に、その顧客が導入前に困っていたことを、四つの方向に振り分けます。第三に、各方向について、顧客がその場で数えられる問いに変換します。「困っていますか」ではなく、何件・何時間・何名を聞く形にします。第四に、質問文を三つに絞ります。多いと現場で選べません。第五に、ロールプレイで自分が答える側に回り、答えられるかを確かめます。自分が詰まる質問は、顧客も詰まります。そして誘導質問との境界線は、ここで自動的に引けます。損失の金額を営業が口にした瞬間に誘導になり、顧客が数字を口にすればコンサルティングになります。「毎年これだけ損をしています」は誘導、「今、月に何件くらい起きていますか」は示唆です。この一線だけ守れば、示唆質問は不安を煽る質問になりません。作った三つを持って次の商談に行けば、この章の目的は果たされます。
H2-4. 質問が尋問になるのは、本数ではなく繋ぎ方
「聞きすぎるな」「状況質問は最小限に」という注意は、どの解説記事にも書かれています。ところが、何本まで聞いてよいのか、どの質問を捨てるのかまで書いたものはほとんどありません。そして実際のところ、尋問だと感じられる原因は本数ではありません。質問して、答えをもらって、次の質問に移る——この一問一答の進み方そのものが、相手には「リストを順に読まれている」と伝わります。この章では、聞かない質問を先に決める操作と、前の答えを次の質問に埋め込む操作の二つで、質問数を減らさずに尋問感を消す方法を扱います。
H3-4-1. 聞かない質問を先に決める — 捨てる基準は「調べられるか」「答えを使うか」
捨てる基準は二つだけです。ひとつは、調べれば分かるかどうか。従業員数、拠点、事業内容、導入しているツール、採用状況は、聞く前に調べます。聞いた時点で準備不足が伝わりますし、その分の時間は後半の示唆質問から差し引かれます。もうひとつは、その答えで自分の次の行動が変わるかどうか。変わらないのであれば、それは会話を埋めるための質問であり、相手の時間を使っているだけです。この二つを通すと、用意した質問リストはおおむね半分になります。減った分が、そのまま示唆質問に使える時間になります。調べて済ませた状況質問は、仮説の確認に置き換えます。「拝見した範囲ではこういう体制と見えるのですが、合っていますか」という形です。質問数としては一つ使いますが、相手の答えは「はい・いいえ」と補足になるため、聞かれている感じがしません。
H3-4-2. 前の答えを次の質問に埋め込む — 一問一答をやめると質問数は変えなくていい
尋問の正体は一問一答です。直し方はひとつで、前の答えを次の質問の頭に埋め込みます。「月に数回、ということですね。その数回は、だいたい同じ工程で起きていますか」——このように、直前に聞いた内容を繰り返してから次を聞くだけで、質問数はまったく同じでも会話になります。相手の側から見ると、答えが使われている実感が生まれるためです。もうひとつ有効なのが、質問の前に理由を置くことです。「提案の範囲を間違えたくないので伺うのですが」と一言添えるだけで、質問の性質が確認から相談に変わります。ここが本記事の要点です。質問数を減らさなくても、尋問ではなくなります。傾聴の姿勢を持つ、といった心構えの話ではなく、繰り返しと理由付けという二つの操作の問題として扱えます。
H2-5. 「特に困っていません」と言われたときの分岐
世の中の質問例リストは、状況質問に答えてくれて、問題質問で困りごとを話してくれて、示唆質問で影響を認めてくれて、解決質問で解決を望んでくれる——という、順調に進んだ商談の台本です。しかし現場で最も多い返答は「特に困っていません」「まあ回っています」「今は考えていません」で、その瞬間に用意した例文はすべて使えなくなります。準備した質問が現場で出なかった経験の大半は、この地点で起きています。この章では、うまくいかなかった側だけを扱います。問題質問が空振りしたとき、示唆質問のあとに黙り込まれたとき、誘導だと感じられたときの三つです。
H3-5-1. 問題質問が空振りしたとき — 困りごとではなく、諦めている前提を探す
「特に困っていません」は、多くの場合ウソではありません。困っていないのではなく、その状態が普通になっているのです。人は、諦めた不便を困りごととして認識しません。立て直しは三手あります。第一に、困りごとではなく作業を聞きます。「困っている点」ではなく「その作業は今、何をどの順でやっていますか」と聞くと、手順を語る途中で詰まっている場所が相手の側から出てきます。第二に、理想と比べさせず、過去と比べさせます。「以前と比べて増えていますか」なら、比較の基準が相手の中にあります。第三に、他社の状態を渡します。「同じくらいの規模の会社では、この工程で差し戻しが起きることが多いのですが、御社ではいかがですか」と、認めさせるのではなく心当たりを聞く形にします。それでも出てこないなら、その商談には問題が存在しないのであって、質問の腕の問題ではありません。
H3-5-2. 示唆質問で黙り込まれた/誘導だと感じられたときの戻し方
示唆質問のあとの沈黙は、多くの場合、考えている時間です。ここで営業が言葉を足すと、顧客が自分で損失を計算する作業を中断させることになります。示唆質問の効き目そのものを、自分で消してしまう形です。待ってください。埋めるとしても質問ではなく、「ゆっくりで大丈夫です」と一言だけにします。一方、表情が固くなる、「営業トークですよね」と言われる、といった反応は沈黙とは別物で、損失の側を営業が語りすぎているサインです。戻し方は三手です。第一に、いったん自社の話を消します。「うちのサービスの話は一度置きます」。第二に、相手の判断を尊重する形に戻します。「今のままで問題ないというご判断でしたら、それが正しいと思います」。第三に、質問を事実確認の型に戻します。誘導だと思われたときに押し返さないことが、この章の要点です。
H2-6. 商談の型で、使う質問と捨てる質問は変わる
多くの解説は、状況質問から解決質問までを一つの商談で通す前提で書かれています。しかし短時間のインサイドセールスで四種類を通すのは物理的に不可能ですし、長く付き合っている既存顧客に状況質問から入るのは失礼にあたります。「毎回すべて使う必要があるのか」という質問が各社のよくある質問欄に並んでいること自体が、実需の裏返しです。時間と関係性が変われば、使う質問も捨てる質問も変わります。以下の表は、商談の型ごとの取捨です。
| 商談の型 | その場のゴール | 使う質問 | 捨てる質問 | 質問数の目安 |
|---|---|---|---|---|
| インサイドセールス・初回架電 | 次のアポイントを取ることです | 問題質問と示唆質問を一つずつ使います | 状況質問は事前に調べ、解決質問は次回に回します | 多くても三、四問です |
| 新規の初回商談 | 課題について合意することです | 仮説確認の状況質問から四種類を通します | 調べれば分かる状況質問は捨てます | 十問前後です |
| 既存顧客への深耕・再訪 | 新しい部署や新しい用途を見つけることです | 示唆質問と解決質問を使います | 状況質問(知っています)と問題質問(関係が後退します)は捨てます | 数問にとどめます |
| 稟議前の再訪・決裁者同席 | 社内で説明できる状態をつくることです | 解決質問を決裁者に向けて使います | 状況質問と問題質問は担当者と済んでいます | 二、三問です |
自分の商材にSPINが向いているのか、という不安についても、ここで整理がつきます。効かない商材があるのではなく、要らない商談があるのです。単価が低い、課題が最初から顕在化している、相手が比較検討まで終えている——こうした商談では、示唆質問は時間の無駄になります。同じ商材でも、商談の状態によって答えは変わります。
H2-7. 業種別の質問例と、自社版への置き換え方
業種別の質問例は、自分の商談に近い言い回しを探すのに役立ちます。ただし、ここに並ぶのはあくまで完成品のサンプルです。そのまま読み上げても噛み合わないのは、例文がその業種の顧客が数えられるものを織り込んだ状態で完成しているからで、読者が持ち帰るべきなのは例そのものではなく作り方のほうです。以下の表は四業種ぶんに絞りました。数を増やす代わりに、表のあとに自社版へ置き換える手順を置きます。
| 業種 | 状況質問(S) | 問題質問(P) | 示唆質問(I) | 解決質問(N) |
|---|---|---|---|---|
| SaaS・IT | どの部署の方が日常的に使われていますか | 使われていない部署はありますか | 使われていない状態が続くと、更新の判断はどうなりそうですか | 全部署で同じ画面を見られるとしたら、何が変わりますか |
| 人材・採用 | 採用の充足はどの職種で遅れていますか | 入社後に早期で辞める方はいますか | 欠員のぶんの業務は今どなたが持っていますか | 予定どおりに配属できたら、その方の負荷はどうなりますか |
| 製造 | 段取り替えはどの工程で発生していますか | 不良が出やすい工程はどこですか | その手直しは、後工程の納期にどう影響していますか | 手直しが要らなくなったら、その時間は何に使えますか |
| 金融・保険 | 現在の補償はどの範囲までかけていますか | 見直しはいつが最後でしたか | 事故や災害が起きたとき、事業の再開はどなたが判断しますか | 補償の範囲が明確になれば、経営者個人の負担はどう変わりますか |
自社版に置き換える手順は三つです。第一に、自社商材が止めている損失を金額・時間・人・信用の四方向に振り分けます。第二に、それぞれを顧客がその場で数えられる問いに変換します。第三に、三つに絞ります。表の例は他社の完成品であり、商談で使えるのは自分で作った三つのほうです。
H2-8. まとめ — 質問例は覚えるものではなく、作って捨てて残すもの
要点は三つです。第一に、質問例は覚えるものではなく、自社商材から作るものです。影響を四方向に振り分けて示唆質問を三つ作れば、次の商談で使えます。第二に、捨てる質問を先に決め、前の答えを次の質問に埋め込めば、質問数を減らさずに尋問ではなくなります。第三に、想定どおりの答えが返ってこない前提で、分岐を持っておくことです。
最後に、引き出した答えの残し方に触れておきます。せっかく顧客が口にした件数や人数は、自分のメモに書くだけでは次の商談までに輪郭が消えます。顧客が自分で数えた数字を、そのまま提案書に戻すこと——SPINで聞いた意味が形になるのは、その一点です。質問例を大量に覚えるより、自分の商材の示唆質問を三つ作るほうが、次の商談には早く効きます。

