答えは全て商談にあるとか言ってたら奈良君に速攻論破された話
ナーチャリングの話をしよう。
「顧客育成」とか死ぬほど顧客に対して失礼なモノの言い方にはなるのだが、要は短期的な受注ではなく、顧客の購買意欲を高めていき、タイミングを見て中期的にクロージングしていくという営業手法のイメージである。
しかしながら商材にもよると思うが、実態は定期的にコンタクトしながら顧客ニーズの顕在化をただただ待つというケースのナーチャリングが圧倒的多数なのではないか。
それが悪なのではなく、「そんなものはナーチャリングではない」と言いたいわけでもなく、組織に最適なナーチャリングの形というのは、検討して損はない領域だと思う。
平均受注単価が100万を超えるような営業組織で、初回接点時の見積提出から見積もり期限内にOKの回答をもらう確率が50%を超えているような営業組織はほぼないのではないか。とすると、商談は半分以上が失注となる。
しかしながら、OKにならなかった顧客がそのタイミングで競合経由で発注していたり、代替する何かを導入していたり、とは限らない。業界や商材にもよるが、“何もしなかった、どこにも発注しなかった”ケースが相当数あるのではないだろうか。
奈良君はナーチャリングの神だった。
しかも
・超属人化している
・何かのツールなどに履歴が残っているわけでもない
・本人も言語化できない
・自分のメンバーに同じことをさせる方法がわからない
企画泣かせの営業マンだった。
ナーチャリングに繋がるヒントがないかということを本人にヒアリングし、当時のメモが残っている。
・シートで管理、ドキュメント管理はしていない。
・カレンダーで、提案できそう、このサービスこれぐらいであてさせてください。
・月初の土日に社名でいれて、追いかけを行っている。 5-6社。
・新規、月、平均3ぐらい。
・ぱっといってきまるのが3-4割 追って追って6-7割
・6割ぐらいは追いかけて入っている。
・先々月、初訪がだいぶ過去の企業。
・商談を 1-2か月に1回ぐらい電話をする。
・前回の商談の終わり方次第だけど、あいさつの商談はしていなくて こういうサービスを今後提案させてもらいたい、って話をしたうえで、 実際に運用イメージの話をしたり、他社実績の話をしたり。 そこで状況聞いて。 逆にちょっと判断もらえそう企業はスピード感もって対応するけどキリないので どうせすぐ検討に乗らない企業はまたご連絡する。
・アポ取った時点ではニーズの有無はわかる。
・クライアント捨てるって発想はあんまりない。
・年間1-2回みたいなタイミングがないところはそこのアポをとらない、一定の予算持っている方、目標があるとか、追ってる企業。
・特段、今は捨てる捨てないという判断というよりかは、顧客社内の定量目標のあるなし
・アポ→過去訪問はほぼほぼ特段大きな理由がなければとれる。
・こういう企業はこうすれば取れるだろうな。課題なかったら。半々ぐらい。 その前に連絡する。
・明確な時期が決まっていて、いいタイミングだったらやるよ。
・出せる予算とか角度とか。翌月とか翌月とか。 予算持ってる企業はバッティングしがち
・予算持ってない企業は 突発的なニーズが生まれやすい
3-5件、突発ニーズ。
・過去訪問企業と、ど新規3-5件ぐらい。この状況なったらウチでしょ? →商材はあんまり関係なくて、相性含めてこれがよさそう。
・あんまりロジックなくて、落とし込みやすいような、
・説明しやすくて納得感がある。商談終わりはそう。追いかけているタイミングでどうやったらウチにしてくれるかのアクションは取ってる。
奈良君ヒアリングメモ本文
後半にかけてメモはどんどん意味不明になっていくのであるが、実際の奈良君へのヒアリングも同様だった。聞き手の僕がどんどん絶望し、諦めるぐらいの意味不明さだった。
それでも30分ぐらいかけて読み解けた断片は下記である
・追いかけていたら6割ぐらいは受注できる
・月初の土日にカレンダーに今月追いかける企業を5-6社ピックアップしている
・どの5-6社かは、「なんとなく、そろそろかな」と思った企業
・商談内容等は特にメモしていない
・定量目標の持っている顧客ほど、受注率が高い印象なのでそこは積極的に追う
・明確に予算を持っていない顧客はニーズが突発なのでタイミング命
具体的な「今月のピックアップ対象をどう絞り込んでいるのか」は同じ日本語を話しているか疑うレベルで理解できなかったし、彼も言語化できなかった。
またどのように追いかけて受注に至るのかということについても「提案したら入るんですよね」以上の解を得ることはできない。
それ以外、方法論に関して再現可能なものは全くもって皆無だった。
まさか、今月アプローチする企業5-6社ピックアップしてカレンダーに書いておけ、ともメンバーに展開するわけにもいかない。実際、奈良君は超スーパー営業マンだったが、メンバーの育成はことさら苦手としていた。
そのころは、僕もかなり文字起こしを用いたAI解析をかなり使い倒している方だったので、常備していた営業スキル分解用のプロンプトで、文字起こしから彼の営業スキルを評価してみた。
定型プロンプトを通じて吐き出された彼の商談は、優秀な部類に入る営業スキルであるという評価だった。商談構成としても美しく、商材理解においても顧客の課題把握、またそこから繋がる提案への道筋についても教科書にしたい内容であった。
しかし、特徴的か?とかナーチャリングに繋がる何かがあるか?というとそのようには見えない。
念のため、AIに彼がナーチャリングの神であるということを伝えた上で、そのヒントになるようなポイントや、こちらが仮説として用意していた点が該当するかを洗い出してみたものの、いずれのAIの回答も的外れという印象しか持てない回答ばかりになった。
残念なことに以前作成した商談バブルにかけてみても、特に示唆は得られなかった。
つまり、「商談に答えはない」のかもしれない。というか恐らくそうだろう。彼自身の動物的な勘と並外れたセンスで“商談外”で「顧客をどう動かすか」で彼は仕上げていると認めざるを得ない結果ではあった。
僕はこのテーマの追求を諦めて、しばらく経ったころ奈良君のナーチャリングは神というテーマが事業内で話題になったことがあった。初めての試みではない。奈良君のナーチャリング術をあわよくば事業の知見としたいというのは、僕も含めて何人かがトライして絶望的なヒアリングを経て、形にならずフェードアウトしていくというのは少なくとも年に一回ぐらいの恒例行事と言ってよかった。
その時である。四半期末で事業の数値があと少しというタイミングで奈良君に何かこの数日でクロージングを前倒しできる案件はないか、ということを組織長が確認していた時である。
「いやーどうでしょう。期限切っていないお客さんがほとんどなのでわからないですね」というのが奈良君の回答で、組織長は、何言ってんだお前って目で奈良君を見ていた。
営業に配属されて二日目ぐらいには、クロージングとか返答期限を切るという初歩中の初歩として学ぶことだと思う。実際に、明確な期限は設けることができない商談はあれど、少なくとも営業としていつごろまでに回答可能かということは確認するのではないだろうか。
改めて奈良君に確認すると「一応見積もりの有効期限とか書きますけど、その期限切れたからと言って、その価格でのお申込みできません、って言わないじゃないですか」と開き直るわけでもなく、まぁそれはそうなんだけどとしか返しようのない回答をしてきた。
改めて彼の文字起こしを解析してみると、確かにその通りだった。彼は能動的に「いつでもいいですよ」とし、そして「またいつ連絡します」というような話もしていなかった。
クロージングの教科書からすると0点に近い内容だと思うが、彼は商談冒頭に必ず「どうやって施策や選択肢や発注先を絞り込んでいくのか」という問いを置いていた。
AIがその周辺のやりとりから彼のクロージング力を平均以上程度はあると認定していて、通常のプロンプトでは拾いきれなかったのである。
では、なぜ彼はナーチャリングの神となりえたのか。
答えは意外で「顧客の中で商談は終わっていないから」である。クロージングされていないから、結論は出ていない。
そして、奈良君から定期的にコンタクトがあり、状況に応じたコミュニケーションを一定期間とり続けているので、結果的には「鬼のように長い期間を一つの商談として確立している」から彼は神たりえたのだ。
「クロージングしなければ商談は終わらない」という事実はChatGPTをもってしてもその存在の可能性に言及することはできなかった。
商談に答えはない、ではない。彼はナーチャリングをしていたのではなく、凡人には想像できない鬼ほど長い商談をしていたのだ。
そして感覚的に彼は「この顧客は拾えない=他社で発注する可能性が高い」と感じた顧客については、また次回ニーズを見越して動いている。セールスフォースでいうと新しい商談オブジェクトを立ち上げるのではなく、ひたすら一つの商談を時系列で刻み続けているのである。
もちろんこんなのは再現もできなければ展開もできなかった。奈良君にも、仮に言語化できたとしても伝授するべきではないという話をした。
あまりにも僕らが持っている商談や営業のセオリーとかけ離れていたからだ。
ただ、神は西新宿にいて、何十本もの商談を今日も細々と続けているのだ。
