NotebookLM社内資料の使い方と注意点|見せてよい範囲でノートを切る

NotebookLMに社内資料を入れると、何が返ってきて、何が返ってこないのか

手元にあった就業規則のPDFを読み込ませて、「有給休暇の申請期限はいつまでですか」と聞いてみる。返ってきたのは「資料に記載がありません」の一文でした。規則にはきちんと書いてあります。ここで「まだ実務には早い」と判断して閉じてしまう方が、いちばん多いところです。原因は次の章で回収しますが、少なくともAIの賢さの問題ではありません。

この道具の性質は、ひとつだけ押さえれば足ります。入れたソースの中からしか答えず、答えにはそれがどのソースのどこから来たのかが付くという点です。裏を返せば、入っていない情報は、どんな聞き方をしても出てきません。以降の章はすべてこの一点の上に乗っているので、機能の一覧や画面の操作手順にはここでは立ち入りません。料金も、社内資料の使い方であれば無料版から始められます。文章を書かせたいなら別の道具のほうが向いていて、NotebookLMは自社の中を探す道具だと割り切ってください。

そのうえで本記事は、注意点を一つの章にまとめません。社内資料の注意点は、使う段階ごとに種類がまるで違うからです。①入れる前(そもそも読めない資料がある)、②ノートを作るとき(誰に見えるのか)、③答えを受け取るとき(旧版が引かれる)、④答えを人に渡すとき(社内に流通する)、⑤外に出すとき(機密情報)。この五つを、それぞれの段階の章で扱います。「NotebookLMの注意点」として世の中で語られているのは、ほとんどが⑤だけです。

使い方の前に — 社内資料には、NotebookLMが読めないものがある

NotebookLMの出力を決めているのは、聞き方ではなく、入っているソースです。この道具の解説では「信頼性の高い資料から順に入れる」「ソースの量と種類を考える」といった助言をよく見かけますが、これはいずれも中身の質の話です。ところが社内資料の場合、中身の質を論じる手前で、そもそもファイルとして読めていないことが非常に多くあります。前章の症状——書いてあるのに「記載がありません」と返ってくる——の正体はこれで、AIの性能ではなく、資料が入っていなかったのです。この章では、読めない資料の型と、読めてはいるが精度を落とす資料を分けて示します。なお、そのファイルをアップロードしてよいかどうかという機密性の判断はまったく別の軸なので、後の章にまわします。ここで扱うのは精度の話だけです。

「資料に記載がありません」と返る4つの型

型は四つあります。第一に、スキャンしただけのPDFです。複合機で読み取った規程、稟議書、契約書がこれにあたります。見た目は文書ですが実体は画像で、テキストが一文字も入っていません。入れてもソースの本数が増えるだけで、中身はゼロです。社内資料でいちばん多い型なので、OCRをかけ直すか、元のWordファイルを探してください。第二に、行を結合し色分けで意味を持たせたExcelです。申請区分表、権限表、料金表がこれにあたります。セルの位置関係と色が担っていた意味は取り込みの時点で消え、数字と語の羅列になります。一行一レコードの素直な表に直すか、表が何を示しているのかを文章で一段落添えてください。第三に、図と矢印だけのパワポです。業務フロー図、組織図、承認ルートでは、画像の中の文字は拾われず、矢印が示していた順序も消えます。フローを箇条書きの文章に起こした補足を一枚足して、一緒に入れるのが確実です。第四に、パスワード付きのファイルで、これはそもそも取り込めません。

もう一つ、紙のまま保管されているもの、個人のパソコンや個人宛メールの添付にあるものは、「読めない」以前に、社内の資料としては存在していないのと同じです。ここまでをまとめると原則は一つになります。社内資料をAIに読ませる仕事の実体は、聞き方を工夫することではなく、資料を読める形にすることです。

※著者の体験

社内の資料が読めるかどうかを、私はずっと「自分が読めるかどうか」で判断していました。

採用広告の代理店側にいた頃、扱っていた媒体は数が多く、掲載プランと料金の一覧は一枚のExcelにまとまっていました。行はいくつも結合され、対象の職種や地域は色で塗り分けられていて、どの色が何を指すのかは、その表のどこにも書かれていません。私は毎日その表を見ていたので、色を見れば分かりました。人事の方に説明するときも、画面を指して「この色が今回のご提案の範囲です」と口で足していました。困ったことが一度もなかったので、あれは完成した資料だと思っていました。

私が離れたあとにその表を開いた人が、同じものを読めたのかどうかは確かめていません。読めていたのは表そのものではなく、表と私の記憶がセットになった状態のほうだったのかもしれない、といまは思います。

入れると精度が落ちるもの — 旧版・重複・別部門

読める形になっていても、入れることで答えが悪くなる資料があります。改定前の規程や、廃止した制度の説明がその筆頭で、これは章をあらためて扱うほど重い問題です。次に、同じ内容の重複ファイルです。「最終」「最終_改」といった名前のものが全部入っていると、AIはどれかを選んで答えますが、選んだ理由は言いません。三つめは、関係のない部門や別拠点の文書で、これは次章で扱う権限の混線に直結します。四つめは、未確定の下書きや検討中の案です。決定事項と区別されないまま答えに混ざるので、社内資料では特に危険です。

原則はここでも一つです。「入れれば入れるほど賢くなる」のではなく、関係のないものが一本入るごとに、答えの的が外れていきます。ソースは足すより、捨てるほうが効きます。最初の一手としては、まず一つの業務、たとえば経費精算に絞り、そこに関係する資料だけを読める形にして入れてみてください。

社内資料で最初に効く2つの場面

活用事例を数えることはしません。部門別の一覧や事例集はすでに各所にありますが、実際に社内で回り続けるのは、同じ人が同じことを繰り返し聞いている場面だけです。一度きりの調べものは、便利だと思われたまま二度と使われません。そこで本記事は場面を二つに絞り、残りは下の表に落とします。表の「使うノート」の列は、次章で設計する三つの層とそのまま繋がっているので、場面を見るときは同時に「これは誰に見えるノートに置く仕事か」も見てください。プロンプトの例は「聞く一文」の列に入れてあり、本文では例文の本数を増やしません。

場面使うノート入れる社内資料聞く一文出てくるもの
規程・手続きへの問い合わせ対応全社公開ノート就業規則、経費精算規程、稟議・申請の手順書この申請の期限と必要な承認者を教えて。どの資料のどの条項からそう判断したかも書いて出典付きの回答文
議事録・報告書の横断部門限定ノート定例の議事録、プロジェクト報告書決まったこと、担当者つきの宿題、結論が出ていない論点の三つに分けて三分類のリスト
長い契約書・仕様書の要点抽出部門限定ノート契約書、仕様書、覚書相手方の義務と当社の義務を分けて並べて。期限のあるものには印を付けて論点の一覧
新人が過去案件を読む部門限定ノート過去案件の報告書、引き継ぎ資料この案件で何が問題になり、どう決着したかを時系列で経緯の要約
補助金・助成金の公募要領の要点化個人ノート公募要領、記入例申請資格、提出書類、締切だけを箇条書きで要件のリスト
改定通知を音声で把握する全社公開ノート社内通知、改定案内前回から変わった点だけを説明して音声概要

営業部門での使い方(商談準備や提案書づくり)は、入れる素材もノートの分け方も前提が変わるため、本記事では扱いません。別の記事が担当します。

規程・マニュアルに質問して、出典ごと答えを出す

社内資料でもっとも投資対効果が高い使い方は、これ一つだと言い切ってかまいません。理由は単純で、同じ質問が何度も来るからです。有給の扱い、経費の精算方法、稟議が必要になる金額の基準、慶弔規定、在宅勤務の条件。総務や情報システムに集まる問い合わせは、質問の種類が有限で、しかも答えはすでに文書になっています。人が毎回文書を探して答えているだけの状態なので、そこを置き換える余地が大きいわけです。

聞くときの型も決まっています。「この申請の期限と、必要な承認者を教えてください。それぞれ、どの資料の何条からそう判断したかも書いてください」。後半の指示が実務の肝で、出典を必ず書かせることが、あとの章で扱う「答えの渡し方」にそのまま効いてきます。なお、ここで「記載がありません」と返ってきたら、まず資料が読めているかを疑ってください。読めていることを確認したうえでなお記載が無ければ、それは社内資料の側の欠落です。この意味は最終章で回収します。

議事録・報告書を横断して、決まったことと未決を分ける

議事録は「要約して」と頼んではいけません。話した順に短くしただけのものが返ってきて、読み返す価値がありません。指定すべきは要約ではなく出力の形で、三つに分けさせます。①決まったこと、②誰かの宿題として残っていること(担当者名つき)、③議論には出たが結論が出ていないこと。この三分類を先に指定するだけで、返ってくるものの実用性が変わります。ソースが情報量を決め、指示は形を決める、と整理しておくと迷いません。

実務でいちばん効くのは③です。未決事項は、議事録に「未決」とは書かれていません。書いた人がそう認識していないからです。複数回分の議事録を横断させて初めて、「三回話題に出ているのに結論が書かれていない論点」が浮かび上がります。外部の知識で隙間を埋めないソース限定型だからこそ、この用途では精度が出ます。なお、会議の録音や参加者の同意、社外秘の扱いといった論点は本記事では扱わず、別の記事に譲ります。ここでは議事録を「入れる社内資料の一種」としてのみ扱います。

ノートブックは「業務」ではなく「見せてよい範囲」で切る

NotebookLMの解説でときどき見かける原則に、「一つのノートには一つのテーマだけを入れる、混ぜない」というものがあります。精度の観点では正しい原則です。ただし社内資料では、これだけでは足りません。テーマで切ると、権限が混ざるからです。たとえば「就業規則ノート」を作ると、全社に公開してよい就業規則と、人事しか見てはいけない評価基準や懲戒事例、給与テーブルが、同じテーマの中に自然と入ってきます。個人の資料と社内資料の決定的な違いは、社内資料にはもともと閲覧権限の階層があることです。人事評価、給与、原価、契約書、経営会議の議事録は、見てよい人が決まっています。ですから切る順番は、権限が先、テーマは後です。テーマ軸は、権限の層の中での下位の分け方として使ってください。この章は本記事の芯にあたります。

共有した瞬間、元資料の閲覧権限は消える

仕様を先に言い切ります。ノートブックを共有すると、共有相手はそのノートに入っているソースを全部読めます。AIの答えだけを共有することはできません。

つまり、共有ドライブで部長にしか見えない設定にしてある資料を、ノートブックに入れて全社に共有した瞬間、共有ドライブ側で丁寧に設定してあった権限は、事実上無意味になります。「AIに聞けば答えが返る」という便利さは、裏側から見れば「本来その資料を見る権限がない人が、答えを得られる」ということでもあります。

やっかいなのは、誰も悪意なくこれをやってしまうことです。「よくある問い合わせに自動で答えられる社内Q&Aを作ろう」という善意で資料をかき集めると、権限の違う資料が一つのノートに混ざります。しかも混ざったことは、画面のどこにも警告されません。

さらに一段あります。AIの答えは、直接見せていない資料の内容も要約して返します。 評価基準を入れたノートに「昇格の条件は何ですか」と聞けば、答えは返ります。原文を開かせなくても、中身は伝わってしまうわけです。「ソースそのものを見せていないから大丈夫」は成立しません。

これは使い方が下手なのではありません。権限の単位でノートを設計していないだけです。設計の話に進みます。

※著者の体験

権限というのは設定の話だと思っていたのですが、発注する側に座ったときに一度、順番が逆なのを見た気がします。

あるサービスを検討していたとき、先方から資料の置き場のリンクをいただきました。説明を受けた提案書と見積を開くつもりで入ったのですが、同じ階層に、こちらの案件とは関係のなさそうな別の見積や、社内の打ち合わせのメモらしきファイルが並んでいました。開かなければいいだけの話ではあります。ただ、一覧が見えている時点で、社名も金額の桁も目に入ります。送ってくださった担当の方に落ち度があるようにも見えませんでした。あの方が送ったのはリンク一本で、フォルダの中を一枚ずつ確かめる作業は、送信の手前のどこにも入っていなかったはずです。

私も渡す側に回ると、頭の中では「あの資料を渡した」と数えています。実際に渡しているのは資料ではなく、その資料が入っている入れ物のほうなのだな、とあの日から少しだけ気にするようになりました。

全社公開・部門限定・個人の3層に分ける

層は三つで足ります。①全社公開ノートは、社員全員が見てよいものだけを入れる層です。就業規則、経費精算や稟議の手順、各種申請フォームの書き方、製品マニュアル、社内システムの操作手順、よくある質問への回答。前章の問い合わせ対応が効くのはこの層で、時間をかけて育てる価値があるのもここだけです。②部門限定ノートは、その部門の業務手順、部門内の議事録、担当者向けの詳細な規定を入れます。部門をまたいで共有しません。③個人ノートは、下書き、検討中の案、まだ決定していないものを置く場所です。決まったら、該当する層へ移します。

判定は一行で足ります。「このノートを社内の誰かに共有したとき、入っているソースを全部見せてよいか」。見せられないものが一本でもあれば、そのノートは分けてください。ノートを分ける基準を「テーマ」から「共有相手」に変えるだけで、権限のすり抜けはほとんど起きなくなります。

運用の一手も一つだけです。共有ボタンを押す前に、ソースの一覧を上から下まで一度眺める。これを習慣にすれば足り、承認フローのような重い仕組みは要りません。重い運用は続かないからです。

なお、社内での生成AIの利用ルールをどう作るかという話には、本記事は踏み込みません。別の記事が担当します。ここで示すのはNotebookLM固有の決めごと三つだけで、共有前に権限を確認すること、改定したらソースを差し替えること、答えをそのまま社内に流さないこと。残り二つは以降の章で扱います。もう一点、営業部門で使う場合には、案件が終わったらノートを閉じるという時間軸での分け方が別に必要になります(こちらも別の記事の担当です)。本記事の権限軸と、その時間軸は両立します。

出典が付いていても間違う — 社内資料は改定されるが、旧版は消えない

社内資料での誤答は、AIが嘘をついて起きるのではありません。社内資料が改定され、旧版が消えずに残っているから起きます。 規程は改定され、マニュアルは更新され、組織図も価格表も変わります。それでも共有ドライブには、旧版が並んだまま残っています。NotebookLMはそのうちどれかを選び、出典付きで、正確に引用します。引用は正しく、内容だけが古いという状態です。

ここには構造的な問題があります。AIがもっともらしい嘘を書いたとき、人は「本当かな」と疑います。ところが出典が付いた答えは疑われません。出典表示は検証を助けるための機能ですが、実際には検証を省かせています。 ちなみに、AIが事実でないことを作り出す問題への対処は別の記事の担当で、こちらは構造が逆です。本記事で扱うのは、AIは正確に引用しているのに、社内資料の版が古いという問題です。

出典付きの誤答が起きる3つの経路

経路は三つです。第一に、旧版が残っている場合。改定前の就業規則、廃止した手当の説明、旧組織図、旧価格表。社内資料でこれがもっとも痛い形で出るのは、期限・金額・承認者です。社員がそれを信じて申請すると、差し戻しで済まないこともあります。第二に、新旧の二本が入っていて矛盾している場合。AIはどちらかを選んで答えますが、選んだ理由も、もう一方が存在することも言いません。「複数のソースで内容が食い違っていないか」と明示的に聞かない限り、表には出てきません。第三に、別部門や別拠点向けの規定を引く場合で、これは前章の混線がそのまま誤答として現れた形です。本社と支社で運用が違う、部門ごとに承認金額が違うといった社内資料は珍しくありません。出典を開けば別拠点の資料だと分かりますが、開かなければ分かりません。

棚卸し担当を置くのではなく、改定手続きにソース差し替えを入れる

対策として「ノートを育てる担当者を決める」という設計をよく見かけます。しかし担当者を決める運用は、ほぼ必ず形骸化します。四半期に一度の棚卸しは、三回目に飛びます。解は担当を増やすことではなく、すでにある手続きに一行足すことです。規程やマニュアルを改定した人が、改定の作業手順の中でノートのソースも差し替える。 改定する人は必ず存在するので、新しい担当を作らずに済みます。運用の担い手や推進体制をどう置くかという議論は、別の記事に譲ります。

あわせて、ファイル名には改定日を入れてください。どちらが新しいかをAIが判断する材料になります。そして旧版はノートから外します。共有ドライブに保管しておくのは問題ありませんが、ソースには入れません。新しい資料を足す作業より、古い版を外す作業のほうが精度を上げます。 最後に、検証する対象は絞ってください。行動が変わる項目(期限・金額・承認者・契約条件)は、答えを鵜呑みにせず出典を開く。 要点の整理や論点の抜け漏れの確認は、多少ずれていても実害が出にくい領域です。検証する対象を絞ることが、検証を続けさせる唯一の方法です。 出典が付いていることは、原文を読まなくてよい理由にはなりません。

最大の注意点は、AIの答えが「社内の正解」になってしまうこと

NotebookLMの注意点として語られているものは、ほぼすべてが社外に出す話です。機密情報をアップロードしてよいか、学習に使われないか。もちろん大事な論点ですが、社内資料で実害が大きいのは、外に漏れることではなく、内側で間違いが正解になることです。

流通の経路は四段あります。①AIが出した要約が、そのままチャットやメールに貼られる。②貼られた要約が、議事録や社内展開資料、新人向けの説明に引用される。③引用された時点で、出典リンクは切れています。コピーされたテキストに出典は付いてきません。④以後、原文は二度と開かれません。

社内資料に固有の重さはここです。社内資料は、「社内でそう決まっていること」が正しさの実体です。外部の事実と違って、照合できる正解が社外にありません。だから誤った要約が流通した時点で、それが事実上の社内基準になります。「AIの誤りは最後は人間が判断する」という一般論は、答えを直接受け取った本人には成り立ちますが、そこから三人先に伝わったコピーには、誰も判断を挟めません。

答えは、ルール一つで足ります。AIの答えを、そのまま社内に流さない。 AIの答えは自分が原文にたどり着くための索引として使い、人に伝えるときは原文の該当箇所を示します。問い合わせに答えるときは、規程の該当する条項を示す。社内展開資料に載せるときは、原文へのリンクを併記する。手間はほとんど増えません。出典は答えに最初から付いているので、それを消さずに渡すだけです。前の章で「どの資料の何条からそう判断したかも書いて」と指示させたのは、このためでした。

もう一つ副作用があります。AIの答えは、常に断定形で返ってきます。 社内資料の原文には「原則として」「所属長の判断による」といった含みが書かれていますが、要約されると含みが落ち、言い切りになります。運用に幅を持たせてあった規定が、AIを通すと硬い一本の答えに変わるわけです。これは事実としては誤りではありませんが、現場では誤りと同じ結果を生みます。判断の余地がある規定ほど、原文に戻してください。

間違った規程内容を社員が信じて行動したら誰の責任になるのか、という不安への答えもここにあります。責任の所在を決める前に、誤りが伝播する経路を一つ塞ぐほうが早い。 出典を消さずに渡す、それだけです。使い始める前に、「AIの答えは出典とセットで渡す」の一行だけをチームで合意しておいてください。

社外に出してよいか — アカウント種別と、預かった他社の資料

何を入れてよいかという判断軸そのものは、本記事では作りません。情報の種類と用途と経路で判断する枠組みは、別の記事が担当しています。ここで扱うのはNotebookLM固有の二点だけです。一点めは、どのアカウントで使っているか。個人のGoogleアカウントで使うのか、会社のGoogle Workspaceアカウントで使うのかで、扱いも管理者から見えるかどうかも変わります。実務でいちばん整理しにくいのは、社内資料が個人アカウントのノートブックに入っている状態です。退職と同時に、そのノートごと会社の管理の外に出ていきます。契約プランごとの違いや学習利用の設定は変わりやすい領域なので、公式の情報を確認してください。二点めは、顧客や取引先から預かった資料です。先方から渡された仕様書、図面、他社の見積は、自社の情報ですらなく他社の情報を預かっているもので、扱いが二重に重くなります。社内資料と同じノートには入れないでください。判断の線を一つだけ挙げるなら、「そのファイルを、社外の業務委託先にメールで送れるか」です。送れないものは、NotebookLMにも入れません。

ノートの層入れてよい条件付き入れない
全社公開ノート就業規則、経費精算・稟議の手順、申請フォームの書き方、製品マニュアル原則として置きません(全員に見せてよいものだけを入れる層のため)個人が特定できる名簿、評価・給与に関する資料、預かった他社の資料
部門限定ノートその部門の業務手順、部門内の議事録、担当者向けの詳細規定顧客名を含む案件資料(会社のアカウントで使っている場合に限る)預かった他社の資料、NDAの範囲を確認できていないもの
個人ノート自分が書いた下書き、検討中の案、公開情報の調べもの決定前の社内資料(決まったら該当する層へ移す)会社の資料全般(個人のGoogleアカウントで使っている場合)

この表の行は、前章の三層とそのまま同じです。社外に出してよいかの判断と、社内で誰に見せるかの判断は別の軸ですが、同じノートの単位で管理できます。 なお会議の録音や社外秘資料の扱いは、別の記事に譲ります。

NotebookLMは、社内資料を整理しない

道具を評価するとき、私たちはたいてい「何ができるか」を数えます。けれど組織に入る道具については、できることの一覧よりも、その道具が扱えないものの形のほうを見たほうが、正体に近づけるのかもしれません。扱えないものの輪郭は、道具の限界であると同時に、受け入れる側の状態をそのままなぞっているからです。

新しい道具を入れると業務が効率化される、という説明の順序も、実のところ逆かもしれません。入れた直後に起きるのは効率化ではなく、採寸です。この資料は読める形になっているか、この情報は誰まで見てよいことになっているか、この版は現行か。どれも道具が新しく持ち込んだ問いではありません。以前から答えが必要だったのに、人が間に立っているあいだは、答えを出さずに済んでいた問いです。読めない資料も、決まっていない権限も、更新されていない版も、それを知っている人の判断が黙って埋めていました。埋まっていたので、欠けていることが誰にも見えなかったわけです。

そう考えると、導入がうまくいかない理由を道具の性能に求めるのは、少し的が外れているのかもしれません。うまくいかないとき、たいていは道具の答えより先に、測定結果のほうが出ています。以下はその読み方の話です。

この種の記事は、たいてい「社内資料が資産になる」「情報整理が標準化される」という方向で締めくくられます。本記事はそこを外します。NotebookLMは、散らかったままの社内資料に対しても、それらしい答えを返します。 これは長所ですが、副作用が二つあります。

副作用の一つめは、整理する動機が消えることです。 「探せないなら聞けばいい」ので、フォルダ構成も、ファイル名の付け方も、旧版の削除も、誰も手をつけなくなります。検索性の問題が解決したのではなく、見えなくなっただけです。旧版は残り続けるので、前章で扱った出典付きの誤答は、むしろ増えていきます。便利になるほど、静かに悪化するという形です。

副作用の二つめは、読まなくてよくなることが、書かなくてよくなることに繋がる点です。 要約で足りるのなら、次に書く議事録はもっと雑になります。ソースの質が下がれば、答えの質が下がる。 入力が細っていくのに、出力への期待だけが残るという順番で壊れていきます。

そのうえで、本記事の本当の主張はここにあります。NotebookLMを社内資料に使う最大の効用は、答えが返ることではなく、答えが返らないことです。

「この場合の承認者は誰か」「前回この判断をした理由は何か」「例外を認めたときの条件は何だったか」と聞いて、「資料に記載がありません」と返ってきたとき——ファイルが読める形になっていることを確認したうえでなら——それは、社内資料に書かれていなかったということです。人に聞けば、誰かが答えてくれます。ベテランの頭の中にあるので、書かれていないことは、これまで一度も可視化されませんでした。 AIは書いていないことを補いません。冒頭で確認したソース限定型という性質が、ここで最後にもう一度効いてきます。だからこの道具は、社内資料の欠落を初めて可視化する道具になります。

したがって、導入して最初にやるべきことは、活用場面を増やすことではありません。「記載がありません」が返ってきた質問を、記録することです。 それが、書かれるべきなのに書かれていない社内資料のリストになります。しかも、実際に誰かが必要としたものだけが載っている、優先順位付きのリストです。社内Wikiの整備計画が続かないのは、何から書けばいいか分からないからでした。これはその答えになります。

資料が整っていないうちに入れても意味がないのではないか、と考えている方へ。整ってから入れるのではありません。入れることで、どこが整っていないかが分かります。 整えてから始めようとすると、永久に始まりません。問い合わせ対応の仕事が要らなくなるのではないか、という心配についても同じです。問い合わせ対応は確かに減ります。しかし減った先に残るのは「資料に書かれていないことを決める仕事」で、それはAIがもっとも答えられない領域です。この道具は、文書化されている仕事を代わりに引き受け、文書化されていない仕事を可視化します。

読める形にすること、見せてよい範囲でノートを切ること、改定の手続きにソースの差し替えを入れること、答えを出典とセットで渡すこと。本記事で扱ってきたものは、すべて「社内資料を、書かれたものとしてきちんと扱う」という一点に繋がっています。NotebookLMが便利にしたのは検索ではなく、社内資料を書く理由のほうです。 なお、書かれていないことをどう引き出して文書にしていくかは、本記事では扱いません。別の記事の担当です。ここで示したのは、欠落が見えるところまでです。

※著者の体験

書かれていない、と最初に気づくのは、たいてい社外にいる人間のほうでした。

営業職に特化した転職エージェントをやっていた頃、候補者の方から具体的な質問をよく受けました。試用期間中はどう評価されるのか、賞与はどういう決まり方をするのか、入社後に部署が変わることはあるのか。私はそれを採用企業の人事の方に確認します。数日して返ってくる答えが「明文化されたものはなく、これまでは都度決めてきた」だったことが、一度や二度ではありませんでした。求人票にも、いただいた社内の資料にも、その項目はありません。隠されていたわけではなく、社内で聞かれたことがなかっただけでした。

私は情報を運んでいるつもりでいたのですが、あの確認は、運ぶより先に「無い」ほうを見つけていたのだと思います。社内にいるあいだは、聞かれない項目が欠けたままでも誰も困らないのだろうな、と外から見ていて感じました。

あわせて読みたい

筆者:店長

営業と、競馬と、しゃべる植物。あっAIも。つい、いろいろ作ってしまう人です。

→ 店長の正体(詳しいプロフィール)

店長

Xアカウント:@nishi_sales_ai 新卒で大手IT企業に入社し、飛び込み営業から深耕営業、大手企業担当まで第一線で経験を積む(表彰歴多数)。その後、事業企画・営業企画部門で経営に近い立場から営業組織と数字に向き合い、10年勤続を経て独立。営業組織の改善に特化したコンサルタント企業を立ち上げる。 コンサルタントして数々の現場に入りつつ、自ら営業特化の転職エージェントも運営。近年はAIを活用した営業組織の業務改善・生産性向上プロジェクトに携わる。現場の最前線と経営の両方を見てきた視点から、営業3年目前後がぶつかる壁を越えるための実践知を発信する。

この著者の記事一覧

\ 最新情報をチェック /

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 ※ が付いている欄は必須項目です