NotebookLMの営業活用方法|ノートブックを2層に分ける

NotebookLMを営業で使うと、なぜ「資料の要約」しか出てこないのか

手元にあった製品資料や過去の提案書のPDFを何本か読み込ませ、「この資料の内容を教えてください」と聞いてみる。返ってくるのは、目次を並べ直したような要約です。同じPDFをChatGPTに貼り付けても、似たものが出てきます。何が違うのか分からないまま、数回開いたきりになる——NotebookLMを営業で使おうとした人の多くが、ここで止まっています。

この道具の性質は、ひとつだけ押さえれば足ります。入れたソースの中からしか答えず、答えにはそれがどのソースのどこから来たのかが付く、という点です。以降の章はすべてこの一点の上に乗っているので、機能の一覧や画面の操作手順にはここでは立ち入りません。料金についても同じで、営業の使い方であれば無料版で始められます。ソース数の上限に当たったときと、チームで共有したくなったときに、有料版を検討すれば十分です。

冒頭の症状を「もっと良い活用方法を知らないからだ」と受け取って、活用術の一覧を探しに来る方が多いのですが、本記事はその見立てを半分だけ否定します。活用術の一覧はすでに各所にあり、本数で競っても読者の役には立ちません。足りていないのは活用術ではなく、何を入れるか(次章)、いくつ作って何で分けるか(その次)、何には使わないかの三つです。この順に見ていきます。そして最後に、もう一段だけ踏み込みます。活用方法をいくつ知っているかは、この道具が効くかどうかを決めていません。

営業がNotebookLMに入れる素材 — 出力を決めるのはプロンプトではなくソース

NotebookLMの出力の質を決めているのは、聞き方ではなく、入っているものです。「資料の品質が回答の品質を決める」という言い方はよく見かけますが、これは心得ではなく仕様として受け取るべきものです。ソースの外を答えない仕組みである以上、入っていない情報は、どんな聞き方をしても出てきません。前章の症状——資料の要約しか返ってこない——の原因は、プロンプトの未熟さではなく、資料しか入れていないことにあります。この章では、営業が最初に入れるべきものと、入れると精度が落ちるものを分けて示します。なお、そのファイルをアップロードしてよいかどうかという機密性の判断は、精度とはまったく別の軸なので、後の章にまわします。ここで扱うのは精度の話だけです。

最初に入れる5つ — 資料ではなく「判断の記録」を入れる

営業が入れるべきものは、説明のための資料ではなく、判断の記録です。具体的には次の五つになります。

  1. 過去の提案書(勝ったものと、負けたものを両方)。勝ったものだけを入れると、うまくいった型しか出てきません。外した提案が入っているから、今回それを避けられます。
  2. 商談議事録・訪問メモ。この記事でいちばん重要なソースで、その理由は最終章で回収します。
  3. 失注報告・受注理由。なぜ決まったのか、なぜ決まらなかったのかが書かれた、社内で唯一の文書です。
  4. 製品資料と、現行の価格・条件。版が古いまま残りやすいので、後の章で扱う版管理がそのまま効いてきます。
  5. 顧客の公開情報(IR資料・中期計画・採用ページ・プレスリリース)。NotebookLMは自分で外を探しに行かないので、これは人が拾って入れる必要があります。

一つ目と二つ目の違いは、言い切っておく価値があります。製品資料は「自社が言いたいこと」、議事録は「顧客が言ったこと」です。前者しか入っていないノートブックからは、自社資料の再構成しか出てきません。

入れると精度が落ちるもの

足せば足すほど賢くなる、という道具ではありません。精度を下げる代表は四つあります。第一に、古い版が残った資料です。改定前の価格表や、提供をやめた機能の説明資料がそれにあたります。第二に、同じ内容の重複ファイルです。「最終」「最終_修正」といった名前のファイルが全部入っている状態では、AIはどれかを選んで答えますが、選んだ理由は言いません。第三に、テキストとして読み取れないスキャンPDFや画像です。中身が使われないまま、ソースの本数だけが増えます。第四に、関係のない部署や別商材の文書で、これは次章で扱う混線に直結します。

原則はひとつです。「入れれば入れるほど賢くなる」のではなく、関係のないものが一本入るごとに、答えの的が外れていきます。ソースは足すよりも、捨てるほうが効きます。

ノートブックの分け方 — 「チーム共通の1つ」と「案件ごと」の2層にする

活用術を紹介する記事はたくさんありますが、その手前にある「ノートブックをいくつ作り、何を単位に分けるのか」を設計したものは、ほとんど見当たりません。顧客別にノートを作ろう、という一行があれば良いほうです。しかし実務で最初に詰まるのは、活用術の中身ではなく、この単位の決め方です。全部を一つにまとめても、顧客ごとに分けても、それぞれ違う形で行き詰まります。ここを設計しないまま活用術だけを試すから、数回で開かなくなります。本章はこの記事の芯にあたる部分で、以降の章はすべてここで決めた二層を前提に進みます。

全部を1つに入れると、A社の質問にB社の資料で答える

製品資料も、複数の顧客の議事録も、他社向けに書いた提案書も、まとめて一つのノートブックに入れたとします。その状態で「A社向けの提案の骨子を出してください」と頼むと、別の顧客の議事録から拾った要望や、別商材の価格条件が混ざった答えが返ってきます。出典が付いているので、開けば別案件の資料だと分かります。問題は、混ざっていることに気づかないまま提案書に載ってしまうことのほうです。

では顧客ごとに全部作ればよいかというと、そちらはそちらで破綻します。案件の数だけノートブックが増え、どれに何を入れたのか分からなくなり、結局は毎回ゼロから資料を集め直すことになります。面倒になって開かなくなるのは、この段階です。どちらも使い方が下手なわけではなく、単位の設計をしていないだけです。

※著者の体験

発注する側で、同じ時期に何社かから説明を受けたことがあります。メモは一冊のノートに、聞いた順に続けて書いていました。会社ごとにページを分ける、という発想がそもそもありませんでした。

数週間後にそのノートを開くと、「初期の作業はこちらでやります」「その部分は追加費用なしで含まれます」といった行が並んでいました。どれがどの社の話なのか、私にはもう分かりませんでした。ただ、困ったのは分からなかったことよりも、分からないと感じなかったことのほうです。自分の字で、同じペンで、同じ間隔で並んでいるので、混ざっているようには見えないのです。私はそのまま社内に「だいたいこういう条件でした」と説明していました。後で一社に確認したら、含まれると思っていた作業は別の会社の話でした。

分けなかったのは面倒だったからではなく、そのときの私にとって、それはただの「今週の打ち合わせのメモ」で、会社ごとの記録だとは思っていなかったからです。書いた本人でも取り違えるものを、書いていない相手に読ませたらどうなるのだろう、とあとから少し怖くなった気がします。

案件ノートは受注・失注で閉じ、残す価値のあるものだけ共通ノートへ移す

設計の答えは二層に分けることです。チーム共通ノートは一つだけ作り、案件が変わっても変わらないものを入れます。製品資料、現行の価格・条件、提案書のテンプレート、勝った提案書、失注報告の蓄積、よくある質問への回答です。中身が特定の案件に依存しないので、誰が聞いても同じ答えが返ります。チームで共有できるのは、この層だけです。もう一方の案件ノートは案件ごとに作り、この案件でしか使わないものを入れます。その顧客の議事録、要望メモ、送った見積、先方の公開情報です。

本章の芯は、二層に分けること自体ではなく、その出入りのルールにあります。案件ノートは、受注または失注した時点で閉じます。閉じるときに、次の案件でも使えるもの——失注理由、刺さった説明、顧客が挙げた比較の観点——だけを共通ノートへ移します。この出入りがあるから、共通ノートは商談を重ねるほど育ち、案件ノートはいくつ増えても平気になります。日常的に開くのは共通ノートだけで、案件ノートは開かれなくなって構いません。迷ったときの判定は一行で足ります。この案件が終わっても使うかどうかで振り分けてください。

なお、共通ノートは一人で作るものではありません。ただし本記事で扱うのは、すでに文書になっているものをどこに置くかまでです。トップセールスの頭の中にあるものをどう引き出して文書にするか、という話は別の記事の担当なので、ここでは線を引いておきます。

商談前と商談後、それぞれで何を聞くか

ここからが、いわゆる活用方法にあたる部分です。方針を先に明示しておくと、本記事は活用術を数えません。十個、三十個と並べた一覧はすでにありますが、実際に毎回回るのは、場面が固定されている使い方だけです。そこで本記事は商談前と商談後の二つに絞り、残りは下の表に落とします。表の「使うノート」の列が、前章で決めた二層とそのまま繋がっている点に注目してください。どのノートを開くかが決まっていない使い方は、思いついたときにしか実行されません。

場面使うノート入れる材料聞く一文出てくるもの
提案書の骨子を作る共通+案件勝った提案書、この顧客の議事録「勝った提案書の構成をふまえて、この顧客向けの骨子を作ってください」章立ての案
長い仕様書・契約書の要点を拾う案件先方から受け取った仕様書・契約書「自社の負担になる条項と、期限が書かれた箇所を出典付きで挙げてください」出典付きの要点
社内のルールを調べる共通社内マニュアル、割引・与信の運用ルール「この条件で見積を出す場合、承認は誰まで必要か教えてください」該当箇所への回答
移動中に案件をおさらいする案件この案件の議事録一式「この案件の経緯と、次回の論点をまとめてください」音声概要・要約
新人が過去案件を読む共通勝った提案書、失注報告「この商材が失注する典型的な理由を、報告書から挙げてください」失注パターンの整理

なお、提案書そのものの書き方や、日報をマネジメントに集約する話は、それぞれ別の記事が担当します。本記事が扱うのは、あくまでNotebookLM側の手順です。

商談前:この顧客の全履歴を横断して「まだ聞けていないこと」を出す

商談前だからといって、この章は顧客を調べる章ではありません。外部の情報を集めてくる用途は次章で「向かない」と整理しますし、そもそもNotebookLMは自分で外を探しに行きません。ここでやるのは、自社の中にすでにある材料を横断することです。これまでの議事録、送った見積、やり取りしたメール、先方の公開情報を案件ノートに入れ、「この案件について、こちらがまだ確認できていないことを挙げてください。それぞれ、どのソースからそう判断したかも書いてください」と聞きます。

この使い方が強いのは、人間は自分が聞き逃したことに気づけないからです。予算の話は出ているのに決裁の順番が書かれていない、期限は言われたのにその理由が書かれていない——こうした欠落は、履歴を機械的に突き合わせたほうが確実に出てきます。外部知識で埋めない仕組みだからこそ精度が出る用途です。もう一つ有効なのが「前回言われた懸念のうち、まだ回答していないものはどれですか」という問いで、これは案件ノートが分かれていなければ成立しません。

商談後:議事録を、決まったこと・宿題・言われた懸念に分ける

商談後は、議事録を要約させるのではなく、三つに分けさせます。第一に決まったこと(次回日程、合意した範囲)、第二に宿題(自社の宿題と先方の宿題を分ける)、第三に言われた懸念と、それを言った人です。「要約してください」と頼むと、話した順に短くしただけのものが返ってきます。これが冒頭の症状の正体です。出力の形を先に指定することが、この道具でのプロンプトの主な役割になります。ソースが情報量を決め、指示は形を決める、と整理すると前章と矛盾しません。

実務の肝は三つ目の「言った人」を書かせることです。同じ懸念でも、担当者が口にしたのか決裁者が口にしたのかで、次の打ち手は変わります。そして、議事録に発言者が書かれていなければ、この情報は出てきません。ソースの書き方が出力を決める、という前章の話が、ここで具体的な形で戻ってきます。

NotebookLMに向く作業と、ChatGPT・Geminiに戻す作業

活用術がいくつ並んでいても、実際に回るのはその一部です。仕分けの基準はひとつしかありません。答えが自社の中にあるか、外にあるかです。NotebookLMは入れたソースの中からしか答えず、自分で外を探しに行きません。この一点で、向く作業と向かない作業はきれいに割れます。向くのは、過去の提案書から今回の骨子を出す、議事録から決定事項と宿題を分ける、長い仕様書や契約書の要点を出典付きで拾う、社内マニュアルに質問して答えを探す、この顧客の全履歴を横断して聞く、新人が過去案件を読む、といった作業です。共通しているのは探す・読む・突き合わせるであって、ゼロから創る作業ではありません。

向かない側も、名指しで挙げておきます。メールや提案文を一から書かせると、入れた資料の言い回しをなぞるだけになります。業界の最新動向を学ぶ、という使い方もよく紹介されますが、NotebookLMは最新情報を自分で取りに行きません。誰かが記事やレポートを拾って入れなければ何も起きないので、「学び続ける」道具ではなく、「拾ってきたものを読む」道具です。競合の実勢価格や動向も、ソースに入っていない以上は出てきません。ロールプレイの相手役も同じ理由で外れます。反論役はソースの外の発話をする必要があるので、ソースに縛られたAIは「資料に書かれていません」に寄っていきます。想定質問を洗い出すのは向きますが、演じさせるのは向きません。

作業答えの在り処使う道具理由
過去案件から骨子・要点を出す自社の中NotebookLM出典付きで元の文書に戻れます
議事録・仕様書・契約書を突き合わせる自社の中NotebookLM読む量が多いほど差が出ます
メール・提案文を一から書くソースが無いChatGPT・Gemini入れた資料の言い回しをなぞるだけになります
業界動向・競合の価格を調べる自社の外ChatGPT・Gemini(検索機能)自分で外を探しに行かない仕組みです
ロールプレイの相手役ソースの外の発話ChatGPT・Gemini反論はソースに書かれていません
アイデアを広げる・壁打ちソースの外ChatGPT・Geminiソースの外に出ないので広がりません

「使い分ける」とは、道具を増やすことではありません。NotebookLMを開くのは自社の中を探すときだけ、と決めてしまうと、迷う回数が減ります。使わなくなる原因の多くは、飽きではなく、向かない作業に使って外した経験です。

出典が付いていても、間違いは出る

この道具の最大の売りは出典表示で、多くの記事がそれを安心の根拠として紹介しています。しかし、出典があることと、その内容が今も正しいことは別です。ソースが古ければ、AIは古いまま、出典付きで、正確に答えます。ここには構造的な落とし穴があります。ChatGPTがもっともらしい嘘を書いたとき、人は「本当だろうか」と疑います。ところがNotebookLMの答えには出典が付いているので、疑われないまま提案書に載り、商談に持ち込まれます。出典表示は検証を助ける機能のはずが、実際には検証を省かせているわけです。一般的なAIの誤りへの対処は別の記事で扱っていますが、構造は逆向きです。あちらはAIが事実でないことを作る問題、本記事はAIが正確に引用しているのにソースが古い問題です。

出典付きの誤答が起きる3つの経路

経路は三つあります。第一に、古い版のソースが残っている場合です。改定前の価格表、提供をやめた機能の説明資料、旧契約書の条項がこれにあたります。営業でこれが最も痛い形で出るのは、価格と納期と契約条件です。顧客に口頭で伝えてしまった瞬間に、取り返しがつきません。

第二に、同じ論点の資料が新旧二本入っていて矛盾している場合です。AIはどちらかを選んで答えますが、選んだ理由も、もう一方が存在することも言いません。「複数のソースで内容が食い違っていないか教えてください」と明示的に聞かない限り、この矛盾は表に出てきません。第三に、別の顧客・別の商材向けに書かれた記述を引く場合です。前に述べた混線がここで効いてきます。出典を開けば別案件の議事録だと分かりますが、開かなければ分かりません。

※著者の体験

採用広告の提案をしていた頃、手元のフォルダには媒体の料金や掲載条件をまとめた資料が、同じ媒体について二本ありました。改定の前と後です。ファイル名に入っていたのは日付ではなく、「最新」と「最新_確定」でした。

人事の方に条件を聞かれたとき、私は記憶で答えるのが怖かったので、その場でフォルダを開いて、書いてある通りに読み上げました。資料を見て答えたのだから丁寧にやったつもりでいましたし、聞いた側も、こちらが画面を開いた時点で確認済みの話として受け取ったはずです。どちらの版を開いたのかを確かめた覚えは、ありません。二本あることは知っていたのに、開く前に選んだ記憶がないのです。

どこに書いてあるかを示せることと、そこに書いてあることが今も生きていることは、別のことでした。あのとき私が安心していたのは内容の正しさではなく、出どころを言えるという手触りのほうだったのだと思います。

古い版を消すことが、最大の精度改善になる

対策は三つで足ります。第一に、ソースのファイル名に日付とバージョンを入れます。名前に情報が入っていれば、AIが答えるときにどちらが新しいかを判断する材料になりますし、人が棚卸しするときにも効きます。第二に、価格・契約条件・納期・導入実績の四つは、答えを鵜呑みにしないと決めます。運用の線はこれ一本で十分です。この四つに触れる答えが返ってきたら、必ず出典をクリックして原文を確認します。それ以外——要点の整理、質問の洗い出し、論点の抜け漏れ——は、多少ずれていても商談で害が出にくい領域です。

第三に、四半期に一度、共通ノートのソースを棚卸しします。新しい資料を足す作業よりも、古い版を消す作業のほうが精度を上げます。捨てるほうが効く、という前の章の原則がここでも同じ形で当てはまります。案件ノートのほうは受注・失注で閉じる運用にしてあるので、棚卸しの対象になりません。二層に分けたことが、ここで効いてきます。締めにひとつだけ。出典が付いていることは、原文を読まなくてよい理由にはなりません。

何を入れてよいか — 共有ノートブックの権限と、預かった資料

顧客の情報を生成AIに入れてよいかどうかという判断軸そのものは、情報の種類・用途・経路の三つで整理する別の記事が担当します。ここではNotebookLM固有の二点だけを扱います。一つ目は共有ノートブックの権限です。ノートブックを共有すると、共有相手はソースを全部読めます。AIの答えだけを共有することはできません。だからチーム共通ノートには、チーム全員が見てよいものしか置けません。特定の顧客の議事録や、個人の評価に関わる記録を共通ノートに入れない理由がここにあります。二層に分ける設計には、精度のほかにこの根拠もあるわけです。個人アカウントで作ったか会社のアカウントで作ったかによって共有できる範囲が変わる点も、先に確認しておいてください。

二つ目は顧客から預かった資料です。先方から渡された他社の提案書や見積、先方社内の資料は、自社の情報ですらなく、他社の情報を顧客経由で預かっているものです。扱いが二重に重いので、共通ノートにも案件ノートにも入れません。判断の線は一つ持っておけば足ります。そのファイルを、社外の業務委託先にメールで送れるか。送れないものは、NotebookLMにも入れないでください。議事録や録音を扱う際の同意と社外秘の扱いについては、別の記事に譲ります。

対象チーム共通ノート案件ノート
製品資料・提案書テンプレート・公開情報入れてよい入れてよい
自社の議事録・見積・失注報告条件付き(顧客名の扱いをチームで決めてから)入れてよい
個人の評価・人事に関わる記録入れない入れない
顧客から預かった他社資料・先方社内資料入れない入れない

活用方法を増やしても、営業は変わらない

活用方法という言葉は、道具の側にある能力を数える言葉です。何ができるか、いくつできるか。しかし道具には、あまり語られないもう一つの側面があります。その道具が、使う側に何を要求しているかです。梯子は高いところへ届くための道具ですが、掛ける壁がなければ立ちません。壁があるかどうかは梯子の性能表には載りませんし、梯子を上手に扱う技術でもありません。それでも、届くかどうかを最終的に決めているのは壁のほうです。

道具の紹介は、たいてい能力の側だけを並べます。要求の側は、使う人がすでに満たしているものとして前提に沈んでいるからです。けれども、導入がうまくいかない場面の多くは、能力が足りない側ではなく、要求が満たされていない側で起きているのかもしれません。だとすれば、順番として先に問うべきは「この道具で何ができるか」ではなく、「この道具は、こちらに何を用意しておけと言っているのか」のほうになります。この問いは道具の性能では答えが出ず、自分たちがふだん何をしているかを見に行くことでしか答えが出ません。

ここまで活用方法を扱ってきた記事として、最後に前提そのものを疑っておきます。この種の記事は「活用術をいくつ知っているか」を価値として並べ、AIは営業の右腕である、資料を読む時間がゼロになる、と締めるのが定型です。本記事はそこに着地しません。営業の時間を分解すると、資料を探す・読む・まとめる時間は確かに減ります。しかし受注を決めているのは顧客に会って聞く時間であり、そこはこの道具では一分も増えません。しかも、減った時間が自動的に顧客と会う時間になるわけでもありません。空いた時間は、たいてい別の資料を読む時間に吸われます。

副作用も二つあります。一つは、準備が速くなると、準備した材料を使いたくなることです。提案の骨子がすぐ出てくるので、そのまま話したくなります。結果として商談が「準備した内容の説明」になり、顧客の話を聞く時間が減ります。生産性が上がったのに受注が減る、という逆転が起きるのはこの経路です。もう一つは、使うほど自社の言い分に閉じていくことです。NotebookLMは入れたソースの中からしか答えません。製品資料と自社の提案書しか入っていないノートブックからは、自社が言いたいことの再構成しか出てきません。AIで作った提案書がどれも同じように見えるのは、AIの性能の問題ではなく、ソースに顧客の言葉が一つも入っていないという問題です。

ここから逆算すると、順番が決まります。ノートブックに最初に入れるべきは、製品資料ではなく、その顧客が言った言葉、つまり議事録です。最初に入れる素材で議事録を最重要に置いたのも、商談前に「まだ聞けていないこと」を出させるのも、商談後に「言われた懸念と発言者」を残させるのも、すべてこの一点に向かっています。したがって、この道具が効くかどうかを決めているのは、活用方法の数ではなく、議事録が溜まっているかどうかです。商談のあとに何も書き残していない会社では、どの活用術も回りません。入れるものが無いからです。逆に、議事録を残している会社は、活用方法を三つしか知らなくても効きます。「活用方法が分からない」は、たいてい「入れるものが無い」の言い換えです。

もう一段あります。この道具が最も効くのは、担当が代わる瞬間です。引き継ぎ、退職、産休、異動のときに、効き方がはっきり変わります。理由は単純で、自分の案件は頭の中にあるので資料を読み返しませんが、他人の案件は読むしかないからです。共通ノートと案件ノートが二層で残っていれば、引き継いだ側は過去の議事録を横断して経緯を短時間で把握できます。個人の時短ツールとして使うと数回で開かなくなり、チームの記録の置き場として使うと止まりません。自分だけが使っても意味がないのではないかという心配は、順序が逆です。一人で使うから止まります。

入れる素材、二層のノートブック、向く作業と戻す作業、出典が付いていても原文に戻ること——本記事で扱ってきたものは、すべてこの一点に繋がっています。活用方法を増やす前に、商談のあと、顧客が言ったことを書き残しているかどうかを確認してください。

※著者の体験

取締役として定例に出ていると、自分が同席していない案件について意見を求められることがあります。その商談に一度も出ていないので、私にできるのは手元の記録を読むことだけでした。

読めたのは、社名と金額と次回の予定でした。顧客が何を言ったのかは、どこにも書かれていませんでした。それでも会議は進むので、私は書かれている材料だけで話せることを話しました。自分が持っている案件なら、記録が薄くても経緯は頭の中にあるので、何も困りません。困ったのは、他人の案件を読むときだけでした。

記録が薄いことに気づくのは、いつも読む側に回ったときです。書く側にいる間、私はその薄さを一度も不便だと思っていなかった気がします。自分の記憶で足りている限り、書き残していないことに気づく機会は来ないのかもしれません。

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筆者:店長

営業と、競馬と、しゃべる植物。あっAIも。つい、いろいろ作ってしまう人です。

→ 店長の正体(詳しいプロフィール)

店長

Xアカウント:@nishi_sales_ai 新卒で大手IT企業に入社し、飛び込み営業から深耕営業、大手企業担当まで第一線で経験を積む(表彰歴多数)。その後、事業企画・営業企画部門で経営に近い立場から営業組織と数字に向き合い、10年勤続を経て独立。営業組織の改善に特化したコンサルタント企業を立ち上げる。 コンサルタントして数々の現場に入りつつ、自ら営業特化の転職エージェントも運営。近年はAIを活用した営業組織の業務改善・生産性向上プロジェクトに携わる。現場の最前線と経営の両方を見てきた視点から、営業3年目前後がぶつかる壁を越えるための実践知を発信する。

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