クラウドサイン的なサービスを申し込んだら紙の申込書が送られてきたでござる
コロナの影響見通しが不透明から、徐々に若者は重症化しにくいということが判明しだしたころ「もういっそのこと全員で武漢に行って免疫つけてかえってくるか」とぶっ飛んだ投稿をSNSにして投資家にしこたま怒られた経営者が運営してる企業の話。
コロナのタイミングで、電子化が一気に進んだ。それ以前からDXという言葉はあったけど、デラックスと呼ぶ人は全くいなくなり社員も顧客も自席にいない前提での業務構築が急速に進んでいった。
その経営者の会社でも、多くの会社が使っていたクラウドサインが実は技術的には何も難しくないというその一点のみで、類似サービスを作ることを意志決定し社内のエンジニアを総動員してかなり短期間に仕上げて営業を張り、一気に拡大を図った。
良くしてくれていた営業から「千円でいいのでお申込みいただけないか。あっ私件数追ってるんで金額はどうでもいいです」と清々しいほどオープンなコミュニケーションで僕にお願いしてきたわけだ。
僕はかなり初期からクラウドサインを導入していて、まぁ移行作業できなくはないけどそもそもクラウドサインの利用料自体が全然高くないんだよな~。と思っていたけど。まぁ1000円だし、と思って。
「使わない前提で、カスタマーサクセスとかの部署からの連絡とかマジいらないからね」という握りのもとで発注したら、タイトルのように「PDFを印刷して捺印の上で戻してほしい」ですらなく、本当に郵送で紙の申込書をどこの住所に送ったらいいですか?と問い合わせてきた。ちょっと恥ずかしそうな感じで。
強烈な顧客体験だった。クラウドサイン的なサービスなのに自社の申し込みは紙で自分のサービス使わないのか・・・。
こうやって何年経っても覚えていてあまつさえコンテンツとして導入の役割を果たせるほどのエンターテイメント。それも1000円。
この日から僕は結構「顧客体験」というキーワードに引っ張られるようになった。
それまでもNPSとか顧客満足度調査みたいなのは営業組織として取り組むケースはあった。満足度というのは体験の積み重ねであり、フェーズごとの満足度を取るケースはあったけどそれを「顧客体験に落とし込む」というところまで徹底してやったことはないかもな~と。
もう一つは「顧客満足」が取引に直結するか、というと実はそういうデータにあまり出会ってこなかったというのはある。そこにはスイッチングコストがあり、満足していなくても変える手間考えると継続する、みたいな仮説提示を見て熱が冷めたこともあった。
顧客体験もそういう意味で言うと、同様なのだけど全顧客に対する普遍的な顧客体験の設計よりも、特定の条件下において特定の顧客群の体験は有用というのが色々やってみて僕の実感値である。
残念なことに、この特定の条件下・特定の顧客群というのが各社共通というよりかは状況によって大きく異なるので、もし僕がそのミッションを背負うとするとどこに何が効くのかなという仮説を設計するところからなのだけど。
最初に僕が定義したのは「リピートを勝ち取るため」の顧客体験設計だった。つまり、予め設計した通りの顧客体験を提供することができれば、満足度があり、再発注の際に第一想起を勝ち取れるのではないかという点だった。
そして早々につまづくことになり、残念ながら日の目を浴びることなく検証もされなかった。
なぜならば、たまたま検証した組織が既にリピート率が7割を超える組織で、そこからの上がり目目指すにあたり天井圧力が強く、検討・現場実装という負荷の割に得られるリターンがそこまで高くないから、という理由で見送った。
では、リピート率が低いセグメントに特化してはどうだろうか、と考えてみたのだけどこれもリピート率が低いのは顧客体験・顧客満足ではなくそもそものニーズ低からリピート率が上がり切らない構造ということに割と早く結論が出てしまった。
そうか、受注や業績をGoalに置くのがそもそも置き方としてイマイチなのか?と考えたがそうなると効果測定というのがアンケートベースになってしまい、そもそも業績相関が不明なものを施策として導入する大義名分がないのか。
僕のような横串組織の人間との相性鑑みて、それはちょっと違うかなということでこれも三回目のMTGでボツとした。
前提としてリピート率が高い組織における顧客体験か~。と迷子になりかけていた時のこと。たいした期待をせずに、過去の顧客満足度のアンケート集計結果のスライドを、ただただ見ていた時のこと。
灯台下暗しだったのだけど、新規商談をした後の発注有無による、商談満足度の結果がスライドとして準備されていた。そうか。顧客体験って別に申し込みをしてくれた顧客限定の概念ではないのか。
そして都合よく?この企業における営業課題もリピートという既存顧客主体のものよりも新規受注をどう底上げするのかというテーマが圧倒的に多かった。
そこで僕の思考は一旦止まる。
数回の商談における体験って薄すぎない?という仮説だった。もちろん、その前後の電話やメールのやり取り含めての顧客体験がすべてではあるものの、それって、もう提案の質とか営業の当たり前レベルとか「顧客体験」ってキーワードでまとめるべきことではないのでは?
そこで僕の思考は前に進むことなく、せっかく「新規受注における顧客体験」というセグメントまで作れたにも関わらず数か月のお休みを挟むことになる。出口があまりにも見えなかったからだ。
ありがたいことに?課題は山積で僕の仕事がなくなることはなかったから綺麗さっぱり忘れて次の次あたりのプロジェクトに携わっていた時のこと。
”提案資料の型化と底上げ”というテーマで、受注率を上げる/提案書の作成コストを下げるという両面からの期待を持って営業現場で量産されている提案書を見ていた時のこと。
比較的クオリティの高い資料が多いのだが、二段ぐらい具体性に欠けて伝わりづらい箇所がどのスライドにも見られた。それは「受注後のフォロー体制」の部分だった。
理由はシンプルで、フォローなんてのは特にしていないし、未来のことを今現在のモノとして伝えるのは過去起きたことを伝えるよりずいぶん難易度が高いのは当たり前のことだった。
その時に「顧客体験」と、この「フォロー」が繋がった。
新規受注を目的とした商談で未来の「顧客体験」を具体化して宣言するというのは、もしかすると、顧客のフォロー期待値を具体のレベルまでご想像いただくことはできるのではないか、という仮説がそこにあった。
非常に特殊な業態のため、具体を伝えることができなくわかりづらくしてしまって申し訳ないのだけど
―リピート率がそもそも高い
―フォローという概念は存在するが実態はしなくてもよい
―正確には、商材力とその顧客企業の持つリテラシーのような変数の影響が大きくフォローの効果が弱め
―しかし、顧客には一定のフォロー期待は存在する。しかしリピート変数への影響は弱く、商材そのものの効能に圧倒的に依存
という環境において、フォローの内容を具現化する、それも新規受注率に影響を与えるレベルで。
最初に考えたのは、なぜこのフォローの内容を具体化しないのか。
すぐに答えが出た。いやそもそもフォローしていないから具体化も何もない。
ではこのサービスにおいて求められる最低限のフォロー。それは何か。
答えは簡単で、思ってたんと違う・聞いてたんと違う、を回避すること。
もしくは、回避できないなら代替案を出すこと。
例えば
SaaS商材で言うと「既存のデータ移行ができなかった」
研修のような商材で言うと「●●さんが講師に来てくれると思っていたのに」
広告系のサービスで言うと「これぐらいのCPAは目指せるって言ってたじゃないか」
これらは全て「サービスの使い始めて、すぐ」に気づけることだった。
そこからは早かった。
「初期限定の思ってたんと違うパッケージ」的な名称を開発して、
わざわざプランとして、名称設定までして0円のバンドル商品とセットで見積もりにいれた。
「一生懸命サポートします」「万全のフォロー体制」なるキーワードは一切排除した。思ってたんと違う時は言ってください。思ってた通りの納品をやりなおしさせていただきます。
そして商品の特性上、そんなことは起きない仕様になっている。仮に起きたとして、何か多大なるコストの持ち出しが発生するかというと多少の労力が必要なだけで、過去そこに大きなエラーが起きたことはなかった。
初期×想定外というスコープで、万が一が起きた時は100%保証する。
受注前の営業において最も重要な顧客体験は、「期待通りに始まる」という確信と安心を持ってもらうこと。
ここからはこのコンテンツを作るための後付けだけど、初期体験は「サービス全体の評価」を決める最重要ファクターであり、後からの満足では上書きしづらい。
だから「初期×想定外」は損失インパクトが実損以上に大きい。
これが、その体験価値を担保する施策になってくれたら、と思っている。
というのは、残念ながら、この後色々あって僕はこの現場を離れてしまうことになった。いつか何らかの形でこの営業会社に関わることがあれば、そのスライドと見積もりを見てこう思うのじゃないかな。効いたんだな、と。
僕自身の顧客である依頼主に提供できた顧客体験は悪くなかったのかな、と。いつかその日がくればいいなと思っている。
