引き継ぎは誰のモノか 引き継ぎの功と罪とビジネスチャンス

「新宿区の担当が代わりまして是非ご挨拶に~」

という営業電話を月に数件は受ける。曲がりなりにも会社を経営していて代表電話番号もNetの大海にどこか落ちてたりするので、色んな営業会社の営業リストのどこかに入っているのだろう。

前任も知らんし、そもそも取引はしていないので担当代わったかとか知らんがな。君の会社のリストの話やないか。なのだけど、結構笑えないのは、既存顧客でもこれが起こりうるということ。

SaaSのように「顧客の自走・顧客の手離れ」が組織として目指す姿の場合、一人の営業担当が300社400社の契約企業を担当しているというのも普通にある。ほとんど会ったこともないし、話したこともないけれども、誰かの発注は誰かの数字になっている。

そういう前提で、顧客と営業が互いを知らないまま発注が継続しているというのはある意味健全とも言えると思っていて、会社と会社間で”純粋な商材機能が必要”が発注の証左とも言える。

だが、そういうサービス形態ばかりでないはず。営業と顧客の一定の関係性の上に成り立つ事業や商品というものも数多くあるはずで、そういう事業形態であっても

「引き継ぎされない」
「今の営業担当が誰か知らない」
「顧客と連絡が取れない」

驚くことに起こりうる。

別で書いたけど、僕が新卒で入った会社はかなり深耕型営業のため前任が築いた先方社内パイプというのは財産そのものだった。

今思うと結構先進的な引き継ぎをしてたな、と思うのだけど、引き継ぎの際には絶対に先方社内の組織図を共有された。そして僕も過去担当していた企業の数だけ何枚もの顧客の組織図を後任に渡してきた。
フロントが誰か、決裁者は誰か、申込書は誰から回収するのか、経営層それぞれが管掌している領域。特に横断的に社内に影響力・発言権を持っている人。10社に1社ぐらいは、社外のコンサルやアドバイザーがキーマンとなっていたり。

もちろん間違っていたり、変化することもあるのだけど一定期間担当していて組織図もかけない複数の登場人物を記載できない、なんてことがあった日には机上引き継ぎに同席している上司から呆れた眼差しを向けられるというイベントが定期的にあった。

そういう会社で育った僕は、引き継ぎしない、できていないという会社があることに結構驚きを隠せなかったのだけど、自分もそれなりに発注する立場になって「意外と日常的に起きていることだな」という体感が強い。

一旦それが是か非か、効率か非効率かは置いといて、僕が興味を持ったのはそれがルール化されていて仕組み化されているのかという点だった。

色々な企業のお手伝いをする中で、違うテーマのミッションをお預けいただいていても僕は引継ぎについては積極的に情報を取りに行くのだが「引き継ぎルールが存在しない」企業はほぼなかった。

一定の期間内のルーティンに組み込まれていて、スケジュール含めて体系的に「すべき論」は設定されてることは確認した。どちらかというと、そのすべき通りになっていないケースの方が多数派だった。

僕は逆張りでこれについては「個人の問題」と思っている。
もちろん組織として追いかける対応させる、粛々とルール通りに。という前提に立つのだけど、引き継ぎそのものというのは、個体差が出る のが致し方ないのではないかと思っている。

こう思うようになったのは理由がある。
挨拶をして担当変更の旨を伝えて、ご状況をお伺いして、たまたまニーズがあれば提案に進む。きっと組織が一律に担保できることはここまでなのかなと思う。だが果たしてそれを「引き継ぎ」と言っていいのかというと結構疑問なのだ。

もちろんないよりはあった方がいいだろう。顧客の印象も違うかもしれない。

でも僕が感じるのは「前任を超えてやる」とか「引き継ぎ直後にいかに価値を感じてもらうか」という気概が営業個人にない限り、引き継ぎしようがしまいが、結果は大きく変わらないのでは?と思っているからだ。

もちろん大取引先と、年に一回程度のお付き合いの企業では全く異なっていることもわかっている。
そんなのは組織が担保するまでもなくその重要性は営業個人が認識しているはずなのでむしろスコープアウトしてよいのじゃないかとさえ思う。
組織が担保しようがしまいが事故る奴は事故る。そうしないようにどうするかは引き継ぎ理論というより通常の案件マネジメントの範疇なのでは。

とすると論点に上がるのは関係性も取引回数も薄い顧客群。ここに対して、引き継ぎはほぼ機能しない。

なぜなら、前任も深く関与していないし、顧客側の方でも営業担当って別に誰でもいい。場合によっては担当が誰かすらわからないという前提があるからだ。つまり、引き継ぐべき“資産”がそもそも存在しない。この領域に対して、引き継ぎの質を上げようとするのは、少し筋が悪い。

むしろここは、「引き継ぎ」ではなく「再獲得」に近い。担当変更というイベントをトリガーにして、一度リセットされた関係性の中で、改めて価値を提示し直す。

今ニーズがあるとかないとか関係ないですよね?ぐらいのスタンスの営業の引き継ぎはやっぱり安定している。そして不思議なことに、そういう営業は元から業績が安定している。結局引き継ぎが営業力のリトマス試験紙的な結論に落ち着いてしまう。

ニーズがなくても顧客と関係性を築き、必要に応じて中長期の提案を仕掛けていく。結局これが負荷とリターンのバランス考えると最適解なんだよな~

店長

Xアカウント:@nishi_sales_ai 新卒で大手IT企業に入社し、飛び込み営業から深耕営業、大手企業担当まで第一線で経験を積む(表彰歴多数)。その後、事業企画・営業企画部門で経営に近い立場から営業組織と数字に向き合い、10年勤続を経て独立。営業組織の改善に特化したコンサルタント企業を立ち上げる。 コンサルタントして数々の現場に入りつつ、自ら営業特化の転職エージェントも運営。近年はAIを活用した営業組織の業務改善・生産性向上プロジェクトに携わる。現場の最前線と経営の両方を見てきた視点から、営業3年目前後がぶつかる壁を越えるための実践知を発信する。

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